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その後、僕は何度も『練習』をやらかして、日はゆっくりゆっくり高く登って行った。
最初は近くの柵に両肘を立てて組んだ指の背に顎を乗せて見ていただけのお姉さんだったけれど、そのうちにこうすれば良いんじゃないかな、こうしたほうが良いかな~とアドバイスめいた事を投げてくれた。
出来るかどうかはともかくとし、僕はすぐその通りに試してみた。
昼を過ぎると僕は一度、完全に挑戦をやめてお姉さんの、結華子さんのアドバイスをもとに本気で練習に取り組んだ。
結華子さんの指導は的確で、僕は一人でやるより格段の速度で上達して行ったけれど、技の後半になればなるほどそれでも追い付かない難易度である事が身にしみてきた。
こんなほぼ無理な難易度を吹っかけておいて、それでいてアドバイスをよこすなんてなんだかおかしい……。でも多分、それが結華子さんの心なんだと僕は胸を痛めた。
転んだ時に火傷しかける程地面が熱くなった頃、僕のお腹が分かり易く悲鳴を上げた。事もあろうにお姉さんの前で!
顔を染める僕に結華子さんはちょっとだけ眉を寄せて顔を近づけた。
「ちゃんと朝ご飯食べてきた? 」
「今日はたまたま……」
今日どころか昨夜も食べていないのだからほぼ24時間何も口にしていない事に今気付いた。そして気づいてしまうと緊張の糸がほどけてどっと空腹感が襲って来る。
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