僕と付き合って下さい

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 少し前から鳴き始めたアブラゼミの声が遠く響く青空の下の河川敷公園。  そのサイクルコースで、一世一代の発言をした僕を、一度自分の後ろを確かめたその美しい人はきょとんとして見つめ返していた。 「私に言っているの? 」  初めて聞いたその声は思ったよりもいくらか幼くて、でもこの暑気を吹き払うかのように涼やかで心地良かった。  内側から膨れ上がる胸の圧力を鼓膜で抑えながら僕はそれが震えないように言った。 「はい!そうです!お姉さんに言いました! 」  お姉さんはちょっと驚いた顔をした後少しだけ興味深そうな顔になった。 「君、そう言う人なの? 」 「良くわかりません。でも、そんなのは関係ありません!今言った事は本気です! 」  最初に見かけたのは5年前。  その時も同じ様にこのコースで普通のよりもいくらか長いスケートボードで彼女は踊っていた。  そう、踊っていたんだ。  疾走するステージの上でトントンと軽快なステップを踏み、体の向きを自在に変え、時に地面を蹴り、時に車輪付きの舞台から跳ね、スケートボードが描く流線型の軌跡とその上の軽妙なステップの融合は、ワルツをしながらアイリッシュダンスを踊るかの様で、その姿はさながら風の中に舞う妖精に見えたんだ。  子供だった僕はその舞いに魅了され、何度もここへ足を運んで遠巻きに眺めた。近くだとすぐ目の前を過ぎて行ってしまうし、何よりこの世のものとは思えぬほど麗しい存在のそばに行くのは恥ずかしかった。
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