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まあ仕事で悩むことは人間でも長い人生何度かあるものですよ。
もう生と死の境を拓くことに迷いはないのかい? ふむ、嫌な仕事ではあるんだねえ、今でも。それでもあの日お前さんが逃げようという気になったせいで…。いやいっそ本当に逃げてくれていたら、私らの残りの人生は変わっていたものを。せめて慌てずに鎌をよく探してくれたら良かったのに。翌日には簡単に見つけることができたんでしょう?
今更お前さんをなじっても仕方がありますまい。何年もどうすれば良かったのか、その答えを探しすぎて、私も疲れてしまったよ。ただ、お前さんの罪は重い。あの日お前さんが直接手にかけた方々のご遺族の人生を大きく狂わせてしまった。いくら適当に帳尻を合わせたからといって、お前さんがたの世界でも問題になったのだろう? 上司からにらまれるのは当然さね。
私とて最期は家族に囲まれていたかったねえ。不幸中の幸いで妻は事件の前に亡くなっていたけれど、息子たちには肩身の狭い思いをさせたまま旅立たねばならないのを残念に思いますよ。息子たちは県外在住なので、普段の生活にはあまり影響がなさそうなのだけが救いです。
最期の息を吐く時間が近づいてきたようです。
そこの下段の戸棚を開いてくれませんか。そこに新品の草刈り鎌を置いてあります。鎌などもう二度と見たくもないとは思っていましたが、もし自らの手で人生を終えるなら同じ方法でと思っておりました。その前に病気につかまってしまいましたが。
お前さん、私を巻き込んだことを少しでも申し訳ないと思うのなら、その鎌を私に使いなさいな。終わったら私の手に握らせてください。息子たちをこれ以上苦しめたくはありませんが、気持ちは分かってくれるだろうと思います。あの子らが帰省しにくくなった分、色々電話で話はしてきましたから。最後まで理由が分からないままのご遺族の皆様にも、私がこうすることで何か少しでも腑に落ちてくれたらありがたいですがねえ。
さあその鎌を取って。…おっと、こちらの鎌は私が預かりましょう。犬がくわえていったというだけあって、こちらの世界で生きる者でも手に持つことができるんですなあ。意外と軽い。
ふふ、どうなっても恨みっこなしですよ。私が負けた場合は先ほど言ったことを忘れないでください。お前さんのせいでこうなってしまったのだから、多少は責任を取っても良いでしょうに。
さあ私も最期の力を振り絞るとしますか。
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