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おや、お久しぶりですねえ。あれから何年経ちましたかね。
あの時なくした鎌は見つかりましたか。ああ、それがあの時の、ですね。野良犬にくわえて持って行かれてしまうなんて、お前さんも抜けていますねえ。
もう私らの住む辺りでは農業をする若者もあまりおりませんでね。たまたまあの日は、休耕地の伸びに伸びた雑草を刈ろうと思っただけだったのに。
ご近所さんに鎌をなくしたから貸してくれと言われたのだったら、何も思わず貸したんでしょうが、見知らぬ人に言われたらさすがにねえ。こんな田舎でもだんだんと物騒になってきましたからな。
草刈り機があったので別に必要なかったのでしょうが、ついつい念のためと思って草刈り鎌まで持ってきてしまったのが運の尽きでした。軽トラの助手席に置いておいたのに、よう気づきましたな。あの後もしばらく草刈り機を振っておりましたから、だいぶ経って軽トラに戻るまで気づきませんでした。あの日は暑くて汗だくだったのに、鎌がないと気づいた時は何となく背中がすっと冷えたのを思い出します。
お前さんはなくした物を熱心に探したわけではないのでしょう。探す時間がなかったのかもしれませんが、持ち主に許可を得ずに持ち出したら泥棒ですよ。いやいや、いくら後で返したとて。血塗れの鎌を誰が戻してほしいと思いましょうや。
あの日のお前さんのノルマはどれぐらいあったんです? 人は4人だったと思ってはおりますが。そのうちの1人はね、昔の同級生の旦那さんでしたわ。もう長いこと会ったこともない級友でしたが、つながりがあっただけにだいぶ警察にも疑われました。人もろくに通らない山手で農作業していたのでは、身の潔白を証明もできませんから。まあ証拠も不十分で逮捕もされませんでしたが、あれからどことなく白い眼で見られる毎日でしたよ。
あの旦那さんの本当の死因は何だったんですかい。…心臓の病ですか。
なるほど、鎌は死因を与えるもので、その後魂を導くのがお前さんの本当の仕事、と。お前さんがたの特別な鎌なら、そこらは自由に調整できるんですなあ。そりゃただの草刈り鎌なら、同じように振り下ろしても首に切りつけるぐらいしかできませんわ。
ほうほう、鎌で死をもたらすのが古来よりの伝統だとは驚きました。ナイフや銃では駄目だったんですな。お前さんが鎌をなくした時に、たまたま近くにいたのが私の運命の分かれ道だったということですか。
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