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 田舎の一地方でたった1日に4人も首を切り裂かれた死人が出たものだから、そりゃもう大騒ぎになりましたよ。ご存知でしたかい。お前さんが律義に鎌を返してきたものだから、私もどれほど翻弄されたことか。  なぜあの日鎌を持ってきてしまったのか、なぜ声をかけられた時に警戒しなかったのか、なぜ私の鎌でなければならなかったのかと、毎日毎日そんなことばかり考えて過ごしてきました。  結局犯人が誰とも分からないまま、事件の影もだんだんと薄れてしまった頃、旦那さんを亡くした級友が訪ねてきてね。卒業式に別れたきりだったから、名のられるまで全くどこの誰とも分かりませんでした。あの頃にはすっかり人に会うのが恐ろしくなっておりましたが、さすがに家にあげないわけにはいかず。  寒い日でした。夜には雪が降ると予報の出ていた日でした。登美ちゃんを和室に通して、ストーブを出しましたが、全く部屋が暖まらなくて。  久々に会った登美ちゃんはあまりにも小さくて。着ていた服もかなりゆとりがあるようだったから、だいぶ痩せたんでしょう。出した茶を飲んでも体の芯を冷やすだけに終わるほど、長いこと2人で黙って座っておりましたよ。私は彼女と眼を合わせることができなかった。  登美ちゃんは「なぜうちの主人は首を…」とポツリと言ったきり、何も言いませんでした。私はなんて答えれば良かったんでしょうね。  犯人は私ではありません。鎌を盗まれただけなんです。おそらく盗んだのは私に声をかけてきた人でしょうが、知らない人でした。その人が犯人かどうかは分かりません。なぜご主人が首を切られたのかも分かりません。私には何も分からないのです。  ただもう私にできたのは謝罪だけでした。それでも私の言葉は登美ちゃんの心を切りつけるには十分鋭利だったことでしょう。草刈り鎌よりも。  お前さんはあの日全部の作業を終えてから、私の家に鎌を放り込んだのだね? 登美ちゃんの旦那さんたちの血だけでなく、枯葉や動物の毛もついていたね。お前さんが自分の仕事をしたのは人間だけでなく、他の動物や植物、この辺りのありとあらゆる生き物を送り出してきたのかい。  お前さんが自分の鎌を使っていれば、それぞれに理由のある逝き方をしたんでしょう。心臓病であったり、交通事故だったり、老衰だったり、辛く悲しいけれども、残された者にとって理由が分かる死因だったんじゃなかろうか。それが誰にも顧みられない生き物だったとしても、そんな無惨な最期を迎えずともすんだんじゃなかろうか。  ずっと何も分からないまま、ただ後悔だけをともに今まで生きてきましたが、お前さんの姿を見てやっと得心が行きました。登美ちゃんや他の遺族の方々はこのまま何も知らないままなんだろうかね。…ああそうかい。ひどいことだ。  あと1つだけ教えてほしいのだが、最も大切な仕事道具を簡単になくしてしまったのはなぜなんだろうね。犬がくわえていったぐらいなら、すぐ取り戻せたんじゃないのかね。
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