File.1  事件の始まり

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 「あ……はい、大丈夫です……。」  そっと手を引っ張って立たせてくれた男子生徒の胸元を見ると、赤色の校章バッジと共に、明朝体で「岩浪」と書かれている。  「君……青色のバッジってことは、1年生?」  優しい声色だが、やはり高校3年生と、ついこの前まで中学生だった自分とでは、背の高さがまるで違う。  迷った、という、たったの4文字が出てこない。思わず目を伏せると、横から別の声が聞こえた。  「岩浪(いわなみ)ー? どうしたー?」  「あぁ、(あずま)……この子、1年生みたいなんだけど、迷子になってるっぽいんだよね。」  ひょいっと覗き込んできた男子生徒の胸元には、赤い校章バッジ、そして「東」と書かれた名札が付いている。  じっと2人に見つめられ、すっかり萎縮してしまった時、不意に岩浪と呼ばれた方の生徒が、屈んで視線を合わせてくれた。  「もしかして君、音楽室に行きたいのかな?」  そっと目を落とすと、手の中には持っていた音楽の教材が一通り揃っている。  おずおずと頷くと、ふっと微笑んだ岩浪が「こっちだよ」と言って、歩き始めてくれた。  ほっと息をつくと、東や他の生徒達に会釈をしつつ、慌てて岩浪の後を追った。
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