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「あ……はい、大丈夫です……。」
そっと手を引っ張って立たせてくれた男子生徒の胸元を見ると、赤色の校章バッジと共に、明朝体で「岩浪」と書かれている。
「君……青色のバッジってことは、1年生?」
優しい声色だが、やはり高校3年生と、ついこの前まで中学生だった自分とでは、背の高さがまるで違う。
迷った、という、たったの4文字が出てこない。思わず目を伏せると、横から別の声が聞こえた。
「岩浪ー? どうしたー?」
「あぁ、東……この子、1年生みたいなんだけど、迷子になってるっぽいんだよね。」
ひょいっと覗き込んできた男子生徒の胸元には、赤い校章バッジ、そして「東」と書かれた名札が付いている。
じっと2人に見つめられ、すっかり萎縮してしまった時、不意に岩浪と呼ばれた方の生徒が、屈んで視線を合わせてくれた。
「もしかして君、音楽室に行きたいのかな?」
そっと目を落とすと、手の中には持っていた音楽の教材が一通り揃っている。
おずおずと頷くと、ふっと微笑んだ岩浪が「こっちだよ」と言って、歩き始めてくれた。
ほっと息をつくと、東や他の生徒達に会釈をしつつ、慌てて岩浪の後を追った。
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