38人が本棚に入れています
本棚に追加
「君、名前は?」
「あ……城上、城上白夜です……。」
よく、初対面の人には白夜と読み間違えられるこの名前。そう伝えると、クスッと岩浪が笑った。
「白い夜、か。幻想的でいいんじゃない? 僕は叶翔。名字の読みは、さっき呼ばれてたから分かるよね?」
「はい……あの、ありがとうございます。本当に困って、たので……。」
緊張してしまい、思わずつっかえてしまう。
顔が熱くなるのを感じていると、ここだよ、と音楽室の札を指さした叶翔が、静かに笑った。
「この学校は本当に広いからね。迷子は誰もが通る道なんだ。だから、先輩達に臆さず聞いてみるといいよ。きっとすぐに慣れると思うからさ。」
そう言う叶翔の目は優しい。確かに、さっきの東という生徒も、叶翔を見てというよりは、自分のことを見た後に声をかけてくれたように思える。
「あの、さっきの……先輩にも、お礼を伝えてもらえますか……?」
「お、了解。さっきの人は、東幸博、僕の友達。もしこのフロアで分からないことあったりしたら、僕らに聞いてくれていいからね。」
頷いて、音楽室の扉に手をかける。
時計を見れば、まだ昼休みが終わるまでに15分はある。もう一度叶翔に会釈すると、叶翔がそっと手を振ってから踵を返した。
防音扉を引き、中に入った瞬間、ひっと悲鳴を漏らし、思わず手に持っていたものを落としてしまった。
「白夜くん? どうし……たの……」
叶翔の声は、それ以上続かなかった。
漂う鉄の臭いと共に目に入ったのは、壁にも天井にも飛び散った血の赤色と、変わり果てた女子生徒の姿だった。
最初のコメントを投稿しよう!