File.1  事件の始まり

4/10
前へ
/162ページ
次へ
 「音楽室の扉を開けたら、ってことか。」  「はい……。」  叶翔が横に付き添ってくれているのが分かる。静かに警察の聴取を受けるが、ショックが大きすぎてあまり話せない。  被害者は、1年生の女子だったらしい。つまり同学年。  それだけでも結構堪えるというのに、警察の「首が無い」と言っているところを聞いてしまい、さらに想像してしまったのが痛い。  「う……」  「白夜くん? 大丈夫?」  そっと顔を覗き込んでくれる叶翔へ、返事を返す余裕も無い。絶えず吐き気が襲ってくる。  「真っ青だね……ちょっと保健室連れて行きたいんですけど……、もういいですか?」  頷いてくれた警官を横目に、足早に離れた。  ふらつく自分を見かねたのだろう、叶翔が背負って走り出してくれるのを感じつつ、ぼんやりと滲んだ風景を見ていた。  (同級生が亡くなったってことか……。)  あの時、入学式へ出席を共にした者が、1人消えたことになる。  別に、特段親しい友人になるなど……そういうことは無くとも、行事等で関わる機会もあったかもしれない。  (生きたくても生きれない人だっているんだぞ……。)  1人、大切な人の顔が浮かび、目を閉じた。  今にも溢れそうな涙を、ただ堪えることしか出来ない自分が情けなくて、更に泣きそうだった。
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加