Pietà

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 空が白みはじめ、夜明けが訪れる。暁の光がステンドグラスを透かし、聖堂を青く染め上げる。  すう、と息を吸って、鍵盤を押し込める。鼓膜を突き抜けるような大きな音が鳴り、建物全体が、世界が震えた。思いのほか大きな音に驚いて、演奏を止めそうになったけれど、なんとか持ち直した。 *  その瞬間、村の人々は間近に落雷が起きたような大きな音で飛び起きた。しかしその音は落雷のように一瞬では終わらず、幾重にも重なった音が長く長く続いた。  七人の天使がラッパを吹くと、終末の獣が目覚め、世界は滅び、最後の審判が行われるという。  その音を聞いた村人たちは、審判の時が、終末が訪れたのだと思い、抱き合い、嘆き、悔い改め、本心では信仰を持っていなかった者も、回心した。しかし村人は皆惑っていた。本当のところ、領主に従い普遍派を捨て改革派を奉じるようになったが、最後の審判の時にその行いがどのように判じられるのか、分からなかった。神の裁きが下るのではないかと怯え、恐れ慄き、その時を待ったが、何も起こることはなかった。人々はただ茫然と、山を見上げていた。
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