Pietà

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 丸一日が過ぎ、明けの明星が上がる頃、人々はあれは誤報だったのではと思い始め、群れ立って山頂の教会を目指した。  恐る恐る扉を開けると、彼女の姿が人々の目に入り、昨日の演奏が天使ではなく彼女によるものだと知る。  彼女の姿を目にした村人は屈辱を受けたのだと怒り、(なじ)り、彼女に詰め寄ろうとしたが、先陣を切った者の足は止まった。彼女が既に事切れていたからだ。  彼女の遺体は、パイプオルガンを仰ぐように、背中から床に崩れ落ちていた。その相貌は穏やかで、安らかな眠りについていた。まるで寄り添うように転がっていた、マリア像のように。  一方で折れた足からは骨が突き出し、とても歩けるような状態ではなかった。ましてやパイプオルガンを演奏するなど……。  昨夜の演奏について、村人たちはひっそりと語り合う。確かに人騒がせではあったが、彼女の演奏そのものは素晴らしいものではなかったか? 父親に勝るとも劣らない様子ではなかったか? 遺体を目にするまで彼女の演奏だと想像もせぬほど、まさしく天より響いた音色ではなかったか? 牧師の手前大きな声では言えないが、彼女の演奏はまさしく奇跡だったのではないか?  そんな噂が村々を駆け巡り、後に彼女の偉業は、奇跡だと讃えられた。ひっそりと。そしていつしか、(あぶく)のように消えていった。これまでに語られた、数多の物語のように。
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