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真代と一緒にネジを探そう!
つぎに知代が目を覚ますと、外は明るくなっていた。
知代は布団から起きると襖を開けた。
お父さんが作業服を着てテレビを観ている。
襖の音に気がついたお父さんが知代を振り返った。
「おはよう。日曜なのに早いな。もう目が覚めたのか」
お父さんの声は聞こえたけど、それよりも気になることがあった。
知代はじっとお父さんの頭を見た。それからお父さんの周りをぐるり回った。すると、うしろの髪の毛が変な方向を向いていた。
きっとあそこからネジが飛び出したんだ。
「ともちゃん、おはよう。今日は早起きしたのね。朝ごはん、つくるからもう少し待ってね」
お母さんも起きていた。だけど、お父さんとはちっとも話さない。それどころか反対を向いて目も合わさない。いつもあんなにおしゃべりしてるのに……。
けんちゃんがリコンしたら他人になると言ったことを思い出し、知代はぞっとした。
やっぱり探さなきゃ。お父さんの頭のネジ。
知代はお父さんが立っている近くをハイハイするような恰好でネジを探した。
「おーい知代。お父さんが、おはようって言ってるのに。聞こえたなら返事ぐらいしろ」
知代がなにも答えないので、お父さんがもう一度、声をかける。
放っとくとお父さんが何度でも呼びそうだったので、知代はしぶしぶ顔をあげた。
お父さんは知代と目が合うと、顎をしゃくって変な顔をして見せた。いつものお父さんだった。でも笑えない。
「うん。おはよ」
さらりと言って知世はお父さんを見つめた。お父さんはもっとおかしな顔をした。
ふぅ。知代の口から大きなため息が出た。
いつもだったら爆笑できるのに、やっぱり今日は笑えない。昨日、お母さんが泣いているのを見たからだ。
「なんだ、元気ないな」
がっかりしたようにお父さんがつぶやいた。
お父さんは知らないんだ。昨日、ふたりがケンカしているのを聞いたことを。お母さんがリコンだって言って泣いたことを。知代の胸はチクチクと痛んだ。
「帰ったら遊ぼうな」
それでもお父さんは、のんきに手を振りながら出て行った。
お父さんの仕事は休みが決まっていない。一週間に二回あるけど、いつが休みかわからない。でも、今日が仕事ということだけは知代にもわかる。
お母さんも仕事をしている。だけど土曜と日曜は休み。そして知代と真代も保育園は休みだ。
そうだ。真代を起こそう。お父さんが落としたネジを一緒に探そう。
お母さんが台所にいるのを見て、知代は真代を起こしに行った。
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