6.夜ほととぎす

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  「しきさんは、明日は定休日だから休みなんですよね」 「はい、そうです」  くったりとした身体をシーツの上に休めて、しばらくベッドの上でふたりで寄り添っていた。  息が整うと、彼が外していた腕時計を枕元にみつけて手に取り、寝そべっている顔の上で確かめている。眼鏡がないから見えないのか目を懲らしている。志紀には『二十三時』に見えた。  彼だけが寝返りをして、枕のあたりで手探りをして眼鏡を見つけた。それをかけながら彼が言う。 「僕も、明日から三日ほど休みなんですよ」  一ヶ月ほど休みなしの出張ばかりだったので、ここで休みを取らせてくれたとのことだった。  志紀も『そうでしたか』と答えるだけ。 「ここで過ごしてもいいですか」 「は?」  思わぬ申し出に、志紀は目を丸くする。この家で休日を過ごす? 男を入れたのも初めてだし、男を泊めるのも初めて。そのうえ、ここで同棲のように三日過ごしたいと? 「あ、駄目なら駄目でいいんです。ダメモトで言ってみただけ。すごくいい場所だから羨ましかったんですよ。ここに住んでいるあなたが」  確かに静かで野鳥の声が聞こえて、窓を開けるとウッドデッキがあり、そこから階段で庭に降りられる。その向こうには芝の庭のホテルとテニスコートが見える、そんな立地の杉木立の中にある。元別荘だからそういう雰囲気は抜群だった。 「よろしいですよ。ただし、お店には出てこないという約束をしてください」  眼鏡をかけた裸の男が嬉しそうににっこり笑う。 「もちろん。あなたのお仕事の邪魔はしませんよ。『お父さん』もいるようですしね」  素っ気ないふりして、志紀の名前は知っているし、カフェマスターが『お父さん』と呼ばれていることもきちんと把握している。抜け目なさそうだなあと志紀はおののいた。
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