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「終電なんで、帰ります」
「・・・あ、じゃあ、送るわ・・・」
竜崎さんがブラジャーを着けながら言う。
俺も急いでパンツを履く。
事後の気だるさを纏っての甘いピロートークは、今日も無かった。
初めてお互いの休みが被った週末。
民家の明かりも消えつつある中、駅まで並んで歩いて行く。
ちらっと隣を見る。夜風に竜崎さんの髪がふわりとなびく。手で髪を直す彼女の表情は、良く見えない。
「それじゃあ・・・」
「うん、じゃあ・・・」
軽く会釈する竜崎さんに、軽く手を振る。改札を入ってホームの奥へ、見えなくなってから帰路につく。
竜崎さんと3回目のセックスをした、初夏の夜。
「ありがとうございましたー!」
空になったジョッキと皿を持って、店を出ていくお客さんに挨拶をする。
「串盛りあがったよー」
「はーい!」
「山田さん、5番テーブルにお通しお願い」
「すいません!10番さんの焼酎水割りまだですか?!」
金曜日の夜の居酒屋は忙しい。
仕事を終えたサラリーマンやらOLやらで賑わって、お客さんの笑い声と店員のオペレーションが飛びかっている。
「シバさん!生2つ貰います!」
「おー!頼んだ!」
俺はジョッキやグラスを洗いながらドリンクを作っていく。
「竜崎さん!これお願い!」
「はい!」
グラスを洗いながら横目で見る。
竜崎さんが両手にお皿を持ってホールに出て行った。
「はぁー・・・今日も乗り切ったー・・・」
「いやー今日もきつかったっすねー・・・」
閉店後の店内。掃除も終え私服に着替え終えて、後輩達と賄いを食べている。
「お疲れ様です」
「おー竜崎さんお疲れ様ー」
「お疲れ様ですー」
竜崎さんが着替え終え、顔を出した。
「お先に失礼します」
「あれ竜崎さん、もう帰っちゃうの?」
「明日1限からなんで・・・」
「それじゃあ」と言って竜崎さんが帰って行くのを皆で手を振る。確か、家から大学まで遠いって言ってたような。
「相変わらず竜崎さんクールだなー」
「でも仕事は丁寧だし、結構話してくれますよ」
「確かにー。でも割りと謎めいてるというか・・・彼氏いんのかな?」
箸が止まる。
「うーん、前聞いた時は『いない』って言ってたと思いますけど・・・」
「へー。いそうなのに。ね、シバさん?」
肉団子を咀嚼するのを止める。
彼氏はいない。
でもセックスする相手はいる。
その相手は俺。
「・・・んー。そうだなー」
これは、誰にも言ってない。
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