14人が本棚に入れています
本棚に追加
再び目を開き見上げると、オーバーハング気味の岩が頭上にかぶさり、
崖上は見る事が出来ない。
斜めにルートを取り直し、ふたたび少年は壁にとりついたヤモリのように
慎重にゆっくりとだが着実に上へと向かう。
ようやくそそり立つ崖の頂上に指先が届いた。
少年の心臓も頭も、もう破裂しそうにどきどきと脈打っている。
ここで落ちたら・・。指先の岩が崩れたら・・。
登っている時以上の恐怖が、手足を強張らせる。
少年は大きく息を吸って、呼吸を整えた。
はずみをつけて最後の足場の岩を蹴ると、崖に上に転がるように身をあげた。
そのまま仰向けに倒れこむと、抜けるような空の青さが目を射る。
澄んだ大気には果物の甘やかな香りが満ちている。
「よし・・。よし・・・。」
少年は自分を励ますように疲れ切った体を無理やり起こすと
崖の上にはただ、無限に広がってみえる果樹園が静かに開かれていた。
最初のコメントを投稿しよう!