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その果樹園の入り口にはひと際大きな木が二本、向かい合わせに植えられていた。
そこにアーチ状に木の板がかけられており、言葉が刻まれていた。
『己の欲のみでは探すこと能わず』
少年は臆することなく、入口を通り、果樹園に足を踏み入れた。
広大な果樹園は、爽やかで甘い林檎の香りが満ちていた。
急に少年は喉の渇きを覚えて、たわわに実った真っ赤な林檎に目をやった。
ひとつくらい食べた所で、誰がいる訳でもない、見ている訳でもない。
少年は伸ばしかけた手を止める。
「僕にはしなきゃいけないことがある。そのために来たんだ。」
その木を見上げると、沢山の林檎の実りの中に、
ひとつだけ金色に光っているものがある。
顔を近づけると、それはちいさなちいさな人の形をしている。
幼い子供の顔をして、気持ち良さそうに眠っているようだ。
「違う、君じゃない。」
少年はそう言って、次々と林檎の木をひとつずつ覗きこんでいった。
どうも木ひとつにつき、ひとりその金色の子供がいるようだった。
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