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呆れたような声の父が私の髪を撫でる。いつか、こんな日が来ると良いと思っていた。小春のように、優しく微笑みかけられる日が来たらいい、と。
「ふふ、お父様、笑ってくださいまし」
「笑えるか……。どれだけ心配させるつもりだ。……小春が、」
「はい……?」
「小春がえらくお前を気にして、今すぐにでも結婚すると言い出した」
「え……?」
「婚儀は一週間後だ。お前は少し体力をつけて臨みなさい。どうしても、お前に出席してほしいのだと言っていたぞ」
起き抜けに聞くには少し心構えが必要になる話だ。自分が言いだしたことの癖に、息の詰まる感覚が喉を突いた。咳とも違う圧迫感が喉元を絞めつけて、「わかりました」と呟くので精一杯だった。
「お前はそれで、満足か」
まるで見透かすような言葉に、泣き出したくなる。そんなわけがないと知っていて、父は問うのだ。
「ええ、本当に、嬉しく思います」
私がこの世を去る時に、その言葉が真実になることを願って、小さく笑った私を、父は切なげに見つめるだけだった。
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