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「傑さんはもちろん、色男ですし、素敵だわ……。でも私の他に想う人がいるようだしって考えていたところに、お姉さまがいらっしゃるって知ったの。ねえ、お姉さまでしょう。傑さんの初恋の人は」
「どうかしら? 小春が忘れているだけじゃないかしら? 花なんて誰でも子どもの頃には興味本位で触ったりするわ。それに、花言葉だって簡単なものなら誰でも知っているし」
「お姉さま、私は花言葉なんて一言も言ってないわ」
「そう、かしら」
「もう、しらばっくれないで。双子の姉がいることを傑さんに暴露するわ。そうだ、今すぐここに呼んで、お姉さまを見てもらえば……」
「ダメ! お願い。私のことは秘密にして。傑さんには知られてはいけないわ……。小春、お願い。きっと小春なら、傑さんにお似合いだわ。だからきっと、二人で幸せになって……!」
「そんなこと言われても……って、お姉さま!? 大丈夫!?」
急に声を張り上げた反動で、思わず咳き込んでしまう。それがおさまらぬままに次の咳が出る。呼吸すら十分に取れなくなりそうで、突き放すように小春の体を寝台から押し出した。
「冬花!?」
遠くから、父の焦った様な怒号が聞こえている気がする。それすらも酷く遠い。大丈夫だと、声をあげたいのに、言葉が続かない。小春が泣いているようにも思えるのに、確認することすら億劫だ。咳き込む唇を塞ぐ手には、べったりと赤がついていた。まだ、まだ小春の返事を聞いていない。それを聞くまでは、私は安心して眠ることができないのだ。
そう思うのに、重くなる瞼が、意識を壊していく。
次に目覚めるのは、小春と傑の婚儀の一週間ほど前の事だった。
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