香に匂ひける

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当日は、雲一つ寄せ付けぬような快晴だった。 それはまるで二人の門出を祝うような陽気で、残冬の候にもかかわらず春の兆しさえ感じさせるようなあたたかさだ。 白無垢に身を包んだ小春が可憐に笑っている。本来私が出てくるべきではないため、一番後ろに並ぶことになった。参進の儀を終えて新婦側の一番後ろの席に着けば、妹の晴れの舞台をこの目に焼き付けようとその場に腰かけて、ゆっくりと息を吐いた。小春の姿はほぼ見えていないようなものだった。 行儀が悪いと知りながら、横に座った方の邪魔にならぬようにと体を動かして、妹の、そして彼の後ろ姿をこの目に焼き付ける。この病がどこで誰に移るものかわからない。だから、小春と、彼の姿をこの目に焼き付けた暁には、すぐにこの場から去らなくてはならない。 餞にと摘んできた花束は、境内のどこかに置いて行けばいい。私から彼に送る、最後の贈り物だ。 そっと席から抜け出して、閑散としている境内を歩く。 きっと、これくらいは許されても良いだろう。境内のごく端の方に置かれている石段に花束を置いて、ゆっくりとしゃがみ込んだ。主役の彼は、ここに置かれている花にさえ気が付かないかもしれない。それでいいのだ。 幼いころ、彼が餞別にと私に捧げたものだ。はじめにくださったパンジーと同じく私の大好きな花だった。 花束に咲き誇っているそれは、黄色の雛菊だ。 花言葉は『ありのまま』。 そのままのわたしで良いのだと、いつも私を励ましてくれた。最後まで、彼には本当の名を伝えられなかったけれど、どうか貴方様は、ありのままの優しい人でいてほしい。 そう、思った。 ゆっくりとそこにある花弁に触れようとして、指先が震える。そんな自分が可笑しかった。 ああ、昔にもこんなことがあったのだ。 もうずっと前の、幸福な記憶に——。
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