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からかうような、優しげな声だった。その声の人は、確かに私の指先に、躊躇うことなく触れて、私の指先を雛菊に触れさせた。
「綺麗に咲いてくれたみたいで良かった。貴女に、ぴったりの花ですね」
それは、もうかけられるはずのない言葉だった。声が出ない。何を言っていいのかわからないのだ。信じられないことが起こっている。
「どうして……」
「どうして、とは」
だっておかしい。彼がここにいるわけがないのに。
「小春と、あそこにいるはずでしょう」
「ああ、残念ながら、僕の初恋は彼女ではなかったらしいですから。それに、彼女は僕より、筧君がお気に召したらしい。——もし、可愛い人。その花束は、僕への贈り物だと思ってもよろしいですか」
「こんな、嘘だわ……」
「はは、僕はきみに嘘をついたことがないでしょう」
「ええ、ええ。でも……、信じられません。わたしこそ、嘘ばかりついていたのに……」
「貴女の嘘にならば、振り回されてみたいものだ」
爽やかに笑う声が私の視線を攫って行く。もう見つめられることはないと思っていた。こうして会話することも、同じように笑うこともないと思っていた。
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