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「すぐる、さん……」
そんな彼が、どうして私を見つめているのだろう。
「やあ、やっと会えましたね。僕の初恋の人。ご機嫌いかがですか」
「どうして、わたくしなど……」
「雛菊の花言葉は何です? 僕の心は、その花の香りと同じくもう何年も変わっていません。貴女は、いかがですか」
鼓膜を揺らすのは、柔らかでいて、熱い告白だった。信じられないものが脳にぶつかって、暫し理解ができなくなる。赤くなる頬に触れられれば、さらに言葉は零れ落ちて行く。
「わたし、は……。小春ではありません」
「ええ、その様ですね……。では、あなたの本当の名を、教えてください。僕はその名を呼びたくて仕方がないのです」
「そんな、そんなことを不用意に女性に言ってはいけませんわ」
「何故?」
「勘違い、されてしまいますもの」
「ええ、どうか勘違いしてください。僕は心底、貴女に夢中なのです」
「すぐる、さ……」
「愛しき花の君、どうか僕に、貴女の名を慈しむ権利を与えてください。それでなければ、僕は毎日貴女の名を想って、とうとう全てが手につかなくなりましょう」
「おおげさ、だわ」
「いいえ。事実、貴女が床に伏せったと聞いて、僕は何一つ満足に物事を動かせなくなりました。貴女は知らないでしょう。僕がどれだけ貴女に焦がれて、今この瞬間にも抱きしめてしまいたいと思っていることか」
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