香に匂ひける

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閑散とした境内に、彼の告白が響き渡る。ただそれだけで意味も分からずに泣き出しそうになる。どうしてこんなにも直向きなのだろう。何度も騙してきた私を、どうしてその様に思えるのだろう。 「幼いころ、何も知らぬような少女を恋慕いました。この歳になっても忘れられずに、貴女に聞いた名を頼りに婚約を交わしました。でも僕の記憶に残るコハルではなかった。次に出会った時、貴女は顔すら見せて下さらなかった。それでも僕は、二度貴女に恋情を抱いた。きっと僕には貴女だけなのです。五十嵐小春でも何でもない、そのままの、ありのままの貴女だから、愛おしいと思うのでしょう」 「すぐるさん、おやめください」 まるで跪くように片足を地面に押し付けて、彼が私に手を翳してくる。その姿に目が眩みそうになった。どうしてそうまでして、私を見つめてくださるのだろう。この人は、優しすぎるのだ。 「僕と結婚してくださいませんか。僕には貴女が必要です。いえ。貴女以外、いらないのです」 「本当に、おやめください……。私には、そのようなことをする価値などないのです」 「いいえ、価値なら僕が知っています。貴女はそのままで、十分すぎるくらいに魅力的だ」
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