香に匂ひける

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「もちろん。貴女が良いのです。僕の想いは雛菊と……、それからパンジーと共にあるのですから」 「取り消しはできませんよ」 「ああ、望むところだ。花の君こそ、覚悟をしてくれたまえ」 「ふふ、その呼び名、何度聞いてもくすぐったいですね。——冬花です。冬の花、と書いて、冬花。ずっと黙っていてごめんなさい」 「冬花……。まさにその花束にふさわしい名ですね。とても気に入りました。どうりで貴女の肌が、雪のように白いわけだ」 「また、お上手ですね」 「きみはたまに、僕の言葉を信じていない節があるな……。さあ、ゆっくりしている時間はない。君の中で悪さをしている病とやらを、壊しに行かなければ」 「ええ? どこへ行く気です」 「もちろん異国だよ。安心していい。世界には、君の命を救える人間がごまんといる。まずは手始めにオランダへ行きましょう。あそこは良い花も多い。きっと気に入りますよ。ああ、しかし、その前に私の邸に戻りましょう。貴女の友人の多恵さんが首をろくろにして待ち構えていますよ」 「……」 「なにを驚いているんです」 「いえ……、多恵さんを……? それに、本当に私を助ける気なのかと……」 「やはりな……。花嫁君は、もう少し僕を信頼した方が良い」 「ふふ、なんだかおかしいです。傑さんと一緒なら、私は何にでもなれる気がしてきました」 「それはいい。しかし、君はそのままでいてください。僕はそのままのきみが好きなのですから」
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