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ドアを乱暴に叩く音がした。誰だろうかと訝りながら、新谷は煎餅布団から体を起こす。時計を見ると、すでに深夜の一時を回っていた。
来客など、大家くらいしか思い当たらなかった。しかしひとブロック先に住む大家の老人も、こんな時間に大きな音でドアを叩くような非常識な人間ではないはずだった。それに、家賃もちゃんと期日に支払っている。
ならば誰だ。そこで、もうひとり心当たりのある相手がいたことを思い出した。彼は深いため息をついて、ゆっくりと立ち上がる。ドアが再び叩かれた。「おい、いるんだろう新谷?」という野太い声。どうやら間違いなかった。
ドアを開けると案の定、水橋のにやけ顔がそこにあった。身長は新谷より拳ひとつほど高く、横幅も広かった。前に会ったときより、また少し太ったようだ。
「やっぱりいたじゃねえか。遅えんだよ、まったくよぉ……」
「こんな時間に何の用だ」
新谷は表情を変えずに尋ねた。どういった用件かは、だいたい予想はついていたが。
「急ぎでないのなら、日を改めてくれないか。明日も仕事がある」
「何だ、あの湿気た工場か。あんなとこ、さっさと辞めちまえって言っただろうに」
この男と知り合ったのは刑務所の中だった。罪状は恐喝と傷害、覚醒剤のワンセット。四年の刑を受けて、新谷より一年早く娑婆に戻って行った。それきりもう会うこともない。そう思っていた。しかし新谷が出所して半年ほど経ったある日、どこでそれを聞き知ったのか、再び彼の前に姿を現したのだった。

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