ユメノクニ

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 まだだよ、まだ起きちゃだめ。  パーティーの準備は終わっていない。  ぬいぐるみたちは、くすくす笑って、持ち主の体を布団に押し込む。  まだ起きちゃだめ。  とびきりのケーキも、炭酸のきいたジュースも、フルーツポンチも途中なんだ。  どれほど楽しそうな声が聞こえても、まだそこで眠っておいて。  まぶたが重たくって、ぜんぜん、起きられないんでしょう?  無理しないで。  小さな頃に誰かから聞いた、あの子守唄を歌ってあげる。  輪唱が広がって、さざなみのように持ち主を包み込む。  外の天気も、気温も、何もここには届かない。  窓の外がどうなっていても、ここは安心、安全だから。  どうせケーキも夢なんでしょ? って、眠たくて舌足らずになる持ち主の、言葉ばかりは冴えている。  そうだよなんて言えなくて、ぬいぐるみたちは持ち主を眠らせる。  大丈夫、きっとぼくたちが守るから。  何があっても大丈夫。  わるいゆめからのがれるように。  どうかあなたは、いい夢を。
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