黄昏の星

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 『随分と歪な星になったものだな…。』 この星に来たのは初めてだが、他の星と比べればこの異常さがわかる。  『しかし…中々見つからんな…この辺りのはずなんだが…。』 静かな川の畔で、私の髪とコートだけが風に揺らぐ。 カサッ…カサッ… 誰も通らなかった道から、独りの女性がこちらへ降りて来る。  《まさか…向こうから来てくれるとはな…。》 まるで約束していたかのように、私の隣りにあるベンチに彼女は腰掛けた。  《さて…どうしたものか…。》 普通の人間に私の姿は見えない。 突然姿を現せて刺激してしまっては、色々と面倒な事になりかねない。  「こんばんは。」  《!?》 彼女はこちらを見ずに誰もいない場所に声をかけた。 見えてはいないが気付いているらしい。 恐れている様子もない。 ならば話は早いと私は彼女の前に姿を現した。  『こんばんは、はじめまして。』 彼女は少し驚いた様子だったか、すぐに冷静な声で話を続けた。  「はじめまして。お迎えに来てくれたの?死神さん。」  『いいや、私は死神ではないよ。それに、君にはまだ早いだろう。』  「そうでもないよ、私、結構年だし。」 そう笑う彼女の手と服はボロボロで、心もかなり擦り減っている様だった。  『お疲れの様だね…。』  「うん、とても。色んな事にね。」 淡々と話す彼女は私が何者であってもどうでもいい様だった。  『どうして私を死神だと?』  「なんとなく。宇宙人や幽霊とは違う感じだし、なんて言うか…光があるっていうか…でも神サマはこの星には居ないから違うかなって。 」  『どうして神が居ないと?』  「居たらこんな世界になってないよ。こんな格差の酷い歪な世界に。」 静かな小さな声が、とても響いて聴こえた。  『憎んでいるのかい?この世界を。』 私は真っ直ぐ、彼女に問うた。  『総て、滅びればいいと。』  「ーーーそうだね…」   深く息をして彼女は吐き出した。  「みんな平等に消えるんなら、それで良いとは思うよ。」 澄んた瞳に黄昏が映る。    『ーーーそうか。』 まるで何かが始まるように。  『近いうちに、この星には調整が入るよ。』  「調整?」  『人間が踏み入れてはいけない領域に達した時、それは起こされる。多くの人間にとってはそれは不幸な事ととられてしまうだろうが、これ以上、人間に退化されても困るしね。』  「退化?進化じゃなくて?」 不思議そうに私を見る彼女に、私は微笑み返す。  「調整されたらどうなるの?」  『さぁ、それは調整者にしかわからないかな。』  「貴方は違うの?」  『違うよ。ただわかる事は、君の優しい心が君の重荷にならずになる世界に成ると言う事だけかな。』 その言葉の瞬間、黄昏が過ぎた瞳が星の様に明るく輝き出した。 何か、希望を感じれたのだろうか。  「ーーーところで…貴方は何者なの?何をしに此処へ?」  『ーーーあぁ、少し探しものをしていてね。だがもう問題無い。ちゃんと回収出来た事だし…。』  「そうなの?」  『あぁ。実は少し昔にね、この星に堕としてしまったんだ。私の〘力〙の一欠片なんだが、本気で願えばこの世界総てを滅ぼせるものでね。まぁ人間が使えばその身体も魂も粉々になって消えてしまうのだが。』  「ーーーそれってーーー」  『ーーーこれは〘力〙を使わず預かってくれていた君への御礼だーーー。』 パチンッ!! 催眠術にかかったように彼女は気を失った。 私は少し先の未来と、道標を彼女の魂に視せた。 ボロボロだった身体と心が、少しずつ癒えてゆく。  《私の〘力〙の欠片が辿り着いた場所が君で良かった。いや、君だからか。〘力〙は純粋な者に惹かれ、宿るものーーー。》  『ーーーやぁ、久しいね。こんな処でどうしたの?』 その声に振り向くと、見知った顔が映る。  『少し探しものがあったんでね。今から行くのか?』  『あぁ、ちょっと前の星で手間取ってね。少し遅れちゃったけど。』  『そうか、頑張ってくれ。』 一人の男が先程いた地球へと降りてゆく。 ーーーさて、一命を取り留めたあの星は これから、 どんな星へと生まれ変われるのだろうな…。  
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