1・ゴミ捨て穴の番人

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1・ゴミ捨て穴の番人

「やめてよお。やめて」  アンツは泣き顔で訴えた。  だが、少年の言うことなど聞いてはもらえなかった。  彼よりも背の高い4人に囲まれて足蹴にされる。彼らとてまだ子供だが。 「うるせえ。この緑野郎」  少年は地面にうずくまり、頭を抱える。その頭髪は緑色をしていた。 「気持ちわりーな。緑色。お前らみたいのがいるからだ」  髪の毛が緑色、それを理由に罵声を浴びせられたり、こうやって複数に囲まれて暴力を受ける。それはアンツ少年にとっては日常だった。  その理由は、緑色の髪の毛にあった。  それこそが『アルクタ民』の証。  穢れた種族の末裔とされ、侮蔑の対象とされる。  外を歩けば緑色の頭を見つけられて、囲まれては蹴られるのだが、しばらく我慢していれば事は治まる。彼らにしても、この行為はほんの「ガス抜き」に過ぎないのだから。 殴りたいだけ、蹴りたいだけ、させてやればいい。そう、親からも教えられている。  彼らとて「被差別民」だ。  クラシュク。  そう呼ばれる最下層民。壁で囲まれた収容区にのみ住むことを許されている民。壁から外に出るためには「外出許可証」を所持し、定められた制服を着用することが義務づけられている。外出はどこへ、何の用事で、何時に戻るまで細かく申請しなければならず、それが守られない場合は制裁となる。  外出といっても私用で出かけることはかなり少ない。外出といえば「労働」を命令された時だ。「労働」は一般市民が嫌がる仕事だ。  その仕事をしている時でさえ、罵声を浴びせられ、石などが飛んで来る。  外出は危険と隣り合わせともいっていいのだ。  そんな彼らの鬱憤を晴らす存在が『アルクタ民』。緑色の髪をした民だ。  最下層民とされるクラシュクの中でも最下層。  壁の中の人々は、壁の外で自分たちがされたことを『アルクタ民』にして気晴らしをするのだ。
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