高嶺の花

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

高嶺の花

先に断っておくが、私は今現在も、モラハラなんていうのは存在しない、捉え方次第だと思っている。 モラハラという言葉が未だこの世になかった頃、私は主婦だった。平均的な給料のサラリーマンと専業主婦の家庭に育った私は、世間知らずだったかもしれない。 私の夫はエリートサラリーマンになると決まったその日に、私にプロポーズしてくれた人だった。見た目も涼し気なハンサムで、結婚式では皆から羨ましがられたものだ。 私は、そんな夫に満足していただくようなことは何一つできなかった。 夫は私が作った三食を毎日毎回ゴミ箱に捨てた。私が誘ってもベッドを共にはしてくれなかった。夫から運よく誘われる夜には、私が疲れていることが多く、頑張って励んだが、へたくそだと言われてしまった。私は恋愛経験もない地味な女だったからに違いない。 夫は指摘しにくいであろうことを、私にはよく指摘してくれた。彼は最低だと私を叱った。みっともない私をどこにも出さないように、許可なく外に出るなと言うほど、深く愛してくれた。 私は、どんなに殴られた日にも、夜には「おやすみなさい」を言うことをモットーにしていた。そのせいで、空気が読めていないとまた殴られることもあったけれど、夢の中では彼に会えないからだ。寝ている間にどちらかが運悪く死んでしまったら、夜の挨拶は最期の言葉になる。私にとっては実家の時代から暗黙の了解としてある、重要なことだった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!