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柔らかい雪の玉が私の横顔に命中した。
孫娘の由衣が投げたのだ。
「こら、由衣! あぶないじゃないか」
私が微笑みながら注意すると、由衣はうっすら積もった雪の上に大の字になっている。
「これ、一回やってみたかったと!」
博多弁丸出しの由衣は小学5年生。まだまだ子供だ。
「富良野ってよかね、来年もまた来たか!」
「ああ。来年ぐらいなら、まだ大丈夫だろう」
温暖化が進み、日本では冬に雪が積もるのは、北海道のごく一部となってしまった。
日本国民は、12月になると、“雪の積もる冬”を求めて、ここへ来る。
それもあと数年で終わる。10年後は確実に日本から雪の積もる冬はなくなる。
世界中でも同じようなことが起きている。
――由衣が大人になるころには、海外に雪のある冬を探しに行かなきゃなぁ……
スマートフォンのニュースサイトでは、九州の福岡で今年の夏の平均気温が50℃を超えたと報じていた。
――九州及び沖縄全県民移動計画、なんとか間に合ってよかった。
昨年、博多から札幌に引っ越した由衣を見ながら、私は安堵のため息をついた。
空から白いものが降って来た。
雪だ。
頬に着いた雪は、私の子供の頃に比べて、少し温かいような気がした……。
(了)
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