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「…おはようございます」
「お、おはよう。気を付けてね」
「…はい。ありがとうございます」
挨拶をすれば、少し驚いた素振りをみせるが挨拶を返してくれる。そのまま通り過ぎて暫くすると、後ろから会話が聞こえてきた。
「やだわ、東宮さんの息子さんこんなに寒いのに半袖よ。親は何を考えているのかしら」
「あそこの家は母親1人だから、子供の世話にまで手が届かないんじゃない?」
「そうね。見ているこっちが寒くなりそう。親がしっかりしてないと子供が可哀想ね」
可哀想、なんて個人の価値観で解釈して決めつけないで欲しい。龍太郎はそう思う。龍太郎には父親がいない。物心がついた頃にはもういなくて、龍太郎には父親の記憶が無かった。その代わりに母親が龍太郎を女手一つで育ててくれている。母親は龍太郎に優しく、龍太郎は母親が大好きだ。だから、母親の言う通りに良い子でいたい。例えそれが世間の考えとずれていたとしても、それは龍太郎にとってはどうでもよかった。
「…寒い」
明日辺りにまた熱が出そうだなと、龍太郎は寒天の下で思った。
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