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自分がセンチネルだと知ったのは七歳になった頃だった。
俺の場合、普通の人間と比べて異様なまでに高い身体能力と鋭い五感…特に触覚が鋭敏である事が特徴で、能力の使い過ぎや感情が昂る事で暴走、発狂にも近い状態になり周辺の人間を巻き込んでしまう。
俺が初めて感情を暴走させて死なせたのは……俺の母親だった。
生まれたばかりの頃は両親も周りの大人達も、誰も俺がセンチネルだとは分からなかったらしい。
成長と共に大人達は異変に気づき、母親と俺を隔離した。
父親は俺がセンチネルである事を理由に巻き込まれる事を嫌い、その利益を手にする為に母と離婚こそしなかったものの俺と母を研究施設に売った。
夫に裏切られいつ暴走するとも知れない俺の能力に怯えながらの日々に母親は徐々に、でも確実に神経を磨り減らして行った。
そして八歳の冬、繰り返されるテストから逃げ出したい一心で能力を暴走させた俺は、止め様とした母親と施設の人間数人を殺してしまった。
あの日から俺は本当に一人ぼっちになった。
「睦月、起きてる?」
分厚い鉄製の扉がゴンゴンと鳴り、ゆっくりと開く。
「ご飯持って来たよ」
世話係の息吹が部屋に入ると同時にベッドの上で横にしていた体を壁へと向ける。
「食べないの?」
「………要らない」
「でも食べないと病気になっちゃうよ」
「……………死んだ方がマシだ」
「……僕は…嫌だ、…睦月が居なくなっちゃうなんて…」
暫く沈黙が続いた後、大袈裟に溜め息を吐いて体を起こす。
ノソノソとベッドから起き上がり椅子へ座ると、机の上に置かれたトレイを少しだけ引き寄せ箸と皿を持つ。
そんな俺を見て安心したのか、嬉しそうに笑った息吹をがうんうんと頷きさっきまで俺が横になっていたベッドの端へと腰を下ろした。
息吹は俺のスピリットでつまりは庇護者、唯一俺の能力の影響を受けない人間だ。
その代わりに俺の精神状態を敏感に感じ取る為、俺の能力が暴走していわゆるゾーニングと呼ばれる状態になった時は、息吹も少なからずダメージを受けてしまう。
母親を失くして半年ほど経ったある日、突然俺の前に現れ傍に居る様になった息吹は俺にとって唯一外の世界との繋がりだった。
その存在を鬱陶しいと思う時もある。
けれど息吹を失えば今度こそ完全に独りになるかもしれない恐怖と、いつも必ず俺に向けられるその笑顔を歪ませてしまう罪悪感から、どうしても俺は息吹の存在を無視し切れないで居た。
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