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気がつくとベッドの上だった。
ぼやけた視界の中、鈍色の天井とチカチカと光る照明が俺を見下ろしていた。
「あ、目ぇ覚めた?」
視線を足元へ動かすと、息吹がベッドの端に腰を下ろしていた。
「大丈夫?気持ち悪いとか無い?」
立ち上がり俺の枕元に来た息吹がそっと俺の前髪に触れた。
瞬時にその指先を払い除けると背を向ける。
「…睦月」
悲しそうな、切なそうな声が聞こえて小さく唇を噛んだ。
先刻の俺の状態はそのまま息吹にも伝わった筈で、だからこそ今し方見た息吹は顔色も悪く酷く疲弊して見えたのに…
もう一度、今度は恐る恐るといった様子でぎこちなく指先が触れて来る。
一瞬竦んだ体を自分の両腕で抱き締める様にして落ち着かせていると、
「…大丈夫……大丈夫だよ、睦月を傷付けるあの人達は出て行ったから」
息吹が宥める様にゆっくりと何度も俺の頭を撫でた。
「……ふっ、っ、……ぅっく…」
その指先と声の優しさに、堪え様として堪え切れない嗚咽が唇の端から零れた。
「睦月、…何があったか訊いても良い?」
俺が落ち着くのを待ってから尋ねた息吹の声は限りなく優しい。
「………外を……見てたんだ」
「うん」
「……空から……何か落ちて来て、……花びらかと思ったんだ…」
「花びら?」
「あぁ。……窓の隙間から何とか指を伸ばして…そしたら冷たくて……でも直ぐに消えて無くなったんだ」
「ああ、そっか…もう雪が降り始めたんだね」
息吹の穏やかな声と背中を撫でる掌の温かさに小さく頷く。
「それで?」
「そしたら……人が居た」
「人?……施設の人?」
「違う。…知らない人…初めて見る……白っぽい金色の髪と白い肌で…空を見てた」
「雪が降ってるのを見てたの?」
「最初は…目を閉じてた。でも……目を開けた瞬間……俺を見た様な気がして…」
「睦月に……気づいたって事?」
「…分からない、分からないんだ……だから怖いんだ…」
枕に押し付けた顔を振る。
何も分からない、だから怖い。
何故あの時、他にも人は居たのにあの男に視線が吸い寄せられたのか。
センチネルが疎まれるこの世の中で、俺の存在など誰も知る必要など無いのに…
どうして……あの瞬間俺は、……彼に触れたいと思ったんだろう?
怯えと不安で微かに震える背中を、息吹は優しく撫で続けてくれた。
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