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プロローグ:子供の情景
隅々まで晴れ渡った、青空の下――。
今では寂れた公園の、秘密基地の前。
ジジジ……と蝉の大合唱が騒々しく奏でられている中。
「おい、みなの者。例の物は、ちゃんと持って来たか?」
輪の中心にいる翼は、高々と声を張り上げて尋ねる。そんな彼に、僕等五人は揃って頷く。
「では、早速作業に取りかかろう。エイゾー、例のものを」
「うん。それじゃあ、みんな、持って来たものをこのボックスに入れて」
翼に促され、僕はみんなの前に一つの箱をカバンから取り出して見せる。
「これがタイムカプセル・ボックスか?」
「うん、この日のために作ったんだ。湿度や温度を管理するようプログラムしてあるから、たとえ土の中に埋めても、中に入れたものにとって最適な保存状態を保つことができるんだ。
それに、もし埋めた場所が分からなくなっちゃっても、シューマンのトロイメアイの音楽を流せば、ボックスが備え付けているドリルを出して自分で穴を掘って出てくるよう設計してあるから、失くす心配もないよ」
「よく分からないけど、つまりは安全ってことだな?」
首を傾げさせている翼に、僕は、
「そういうこと」
と簡単に答える。
「よーし、そうと分かれば、安心して埋められるな。
それじゃあ、まずは俺から入れるぞ。俺はこの前の剣道の大会で優勝した時にもらったメダルだ。
次、拓。お前が入れろよ」
「うん。僕は一番大切にしている本だよ。
はい、次は莉裕也の番」
「ああ。ほら、エリ。早くしろよ」
「へえ。莉裕也坊ちゃまは懐中時計かー」
「なんだよ、悪いかよ」
「別にー。エリちゃんは、なにを持ってきたの?」
「私はアルバムですわ。みんなで撮った写真をまとめてきましたの」
「へえ、アルバムなんて素敵ね。アタシは未来の自分に書いた手紙よ」
「手紙なんて芳子らしいや。
で。最後、エイゾーは?」
「僕は……」
じっと、みんなの視線が集まる中。
「えーと……、ないしょ」
「なんだよ、それー」
「あははっ。エイゾーのことだから、きっと自分で発明した、あっと驚くものだよ」
「そうね、拓の言う通りね。それじゃあ、開ける時までの楽しみにしておくわね」
別にたいしたものじゃないんだけどなあ。どうしよう。拓も芳子も、みんな、すっかり期待してしまっている。
そんな僕の心配をよそに持って来たものをボックスの中にしまい終えると、自然と流れてくる汗を手の甲で拭いながらもシャベルを使って土を掘り。程よい深さまで達すると、穴の中にボックスを置いて、今度は上から土をかぶせていく。
最後に足で地面をよく踏み固め。
「よし、これでいいだろう。
それじゃあ、十三年後の、二十歳になった時。みんなでこのタイムカプセルを掘り起こそうぜ!」
「うん――!」
僕等は誓い合った。じりじりと照らす灼熱の太陽の下、寂れた公園の、秘密基地の前で。
そう。
あの頃の僕等は、大人達が作ったレールの上をなんの疑問も持つことなく、ただ真っ直ぐに歩いて行くだけだって。あの時まで一滴の疑いもなく、そう思っていたんだ――……。
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