第1話:見知らぬ国と人々について

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 あの後、翼の発案に従って、みんなで町内中を探し回った。けど、案の定、こんなご時世だ。誰にも知られそうにない遊び場なんて、そう簡単には見つからない。 「あーあ、秘密基地かあ……」  やっぱりないよなあ、そんな都合の良い場所なんて。  すっかり日が暮れてしまったので、その日は解散となり。続きは明日以降に持ち越されることになった。  家に帰って夕食を済まし、それからお風呂に入って。自室に下がると、僕は昼間壊れてしまっていた立体映像複製機の修理を始めた。  だけど、それも無事に終わり。時計を見ると針は十一時を示していた。僕は慌てて部屋の電気を消すと、ごろんとベッドの上に寝転がる。目をつむり、周りの闇に溶け込むよう、自然とおそって来た眠気に素直に従って意識を手放す。  けれど。 「ん、あれ……。なんだ、あの光は……?」  タンスの後ろ側から薄っすらと、微かにだが光のようなものがもれていた。僕は起き上がると、タンスを横に押して動かしてみた。すると、その後ろから一つの扉が現れた。 「これって、もしかして押し入れ……?」  まさか僕の部屋に押し入れがあったなんて。何年もこの家に住んでいるのに、今まで全然気付かなかった。  この部屋は元々お父さんが使っていたらしいけど、僕が生まれてからはいつの間にか僕の部屋になっていた。もしかしたらお母さんもこの押し入れのことを知らないかもしれない。  どうやら光は押し入れの中からもれているみたいで。僕は固唾を呑むと、押し入れの扉をゆっくりと開けていった。  すると、もわっとカビ臭い匂いが鼻をくすぐり。けど、それもすぐに忘れさせられる。  中は思っていたよりも広く。たくさんの段ボールに棚、本やオルガンなど、今では使われていないものがたくさんしまい込まれていた。見事にガラクタばかりである。  それらを眺めながら僕は問題の光の方へと進んで行く。すると。  「なに、これ……?」  光の出所は直径十センチくらいの丸い石で、例の光はこの石から放たれていた。僕はおそるおそる、その石へと手を伸ばす。  石を掴んだ瞬間――、その石はさらに輝きを増した。あまりの眩しさに、僕はつい目をつむってしまう。けれど光が弱まったのか。どうにかまぶたを開かせていくと、いつの間に現れたのだろう。目の前には黒い大きなもやのようなものが渦巻いていた。  果てしない暗闇のトンネルが、ずっと、ずっと遠くまで続いているようで。覚束ない。どこまで続いているのか、僕には全く検討がつかない。  だけど、またしても、もやの奥の方がちらちらと瞬いていた。悩んだ挙句、僕は意を決すると例の石を強く握り締めながら、一歩、強く目をつむったまま足を大きく踏み出した。  薄っすらと瞳を開けていき……、たった一歩進んだだけにも関わらず、僕の周りは一瞬の内に四方八方闇に包まれていた。恐怖心というのだろうか。僕の意思とは無関係に全身がおののき出し、身震いが止まりそうにない。  だけど、それでも僕は好奇心には勝てず、一歩、また一歩と同じ動作を繰り返させる。僕の視界は黒一色、ただ真っ直ぐに遠くの光を目指して歩き続けた。  一体どのくらいの時間が経過したのか。全く分からない。時計を持ってくればよかったと半ば後悔していると、真っ暗闇の向こう側が急に明るくなり出し……。 「うわあっ……!」  その眩しさに、僕は思い切り目をつむり――。
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