木の精のおじいさんと青い花

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 ぼくは幽霊とか妖怪とか精霊とか、不思議な物が見える以外は何の取りえもない、小学四年生の男の子。  そんなぼくのクラスに一ノ瀬さんが転校してきたのは、ゴールデンウィークが開けたころ。時期外れの転校生の登場に色めき立つクラスのみんなに向かって、この子は元気よくあいさつをしていた。 『ボク、一ノ瀬真夜子って言いまーす。これから仲良くしてくださーい』  まるでお日様のような笑顔で、自己紹介をする一ノ瀬さんを見ながら、きっとぼくは仲良くすることも、話をすることも無いんだろうなって思っていた。ぼっちのぼくとは、あまりにも住む世界がちがいすぎるから。 『変なの。女の子なのにボクだってさ』  そんな声もあったけど、そんなちょっと変わった所も、みんなをひき付ける材料になるだろう。そして案の定、一ノ瀬さんはすぐにクラスの人気者になった。  休み時間の度に、だれかと楽しそうに話していて、いつも明るくて元気で。  だからそんな一ノ瀬さんがぼくに声をかけてきたことが信じられなくて。さらに…… 「あの花、木の精のおじいさんがさかせてくれたんだよね? やさしいねー」  そう言いながら木の上にいるおじいさんに手をふる様子を、ぼくは不思議な気持ちで見ていた。どうやら一ノ瀬さんは本当に、見えるらしい。  さっき一ノ瀬さんは、家族以外で見える人に会ったのは初めてって言ってたけど、と言うことはお父さんやお母さんは見ることができるのかな? ぼくはぼく以外の見える人に会うのなんて初めてで、本当は色々聞いてみたかったけど、何を聞いたらいいのかわからない。 「ねえ、君はいつから見ることができたの?」 「他に見える人っているの?」 「あの花、本当にキレイだね。おじいさん、ありがとう!」  ぼくとはちがって、一ノ瀬さんはよくしゃべる。何か返事をしなくちゃとは思うけど、上手く言葉にできないや。そうしてやっと出てきた言葉は…… 「い、一ノ瀬さん。早く絵をかかなくちゃ、先生におこられるよ」  せっかく話しかけられたと言うのに、なぜかこんなことしか言えないぼく。気を悪くしたかもと心配したけど、一ノ瀬さんに気にした様子はない。 「あ、そうだった。ありがとう、教えてくれて」  思い出したように絵をかく用意をする一ノ瀬さん。どうやら本当にわすれていたみたい。  ちょっぴり呆れながらも、なぜか温かい気持ちになる。今までこんな風にぼくに話しかけてくれる人なんて、いなかったから。  だからぼくは、めずらしくこう思ったんだ。一ノ瀬さんと、友達になりたいって。  だけどいくらそう思っても、中々行動にはうつせずに。気がつけばもう帰る時間。  集合場所にもどるなり一ノ瀬さんはクラスの子達の元へ行き、ぼくはぼっちにぎゃくもどりだ。まあいいや、いっしょに絵がかけただけでも、楽しかったし。  そうしてかいたばかりの木の絵をながめながら、笑みをこぼしていたんだけど。 「おい光太、何笑ってんだよ」  かけられた言葉にドキッとする。おそるおそる声のした方を見ると、そこにいたのは同じクラスの十勝陽介君。十勝君はぼくと話をすることのある、数少ないクラスメイトなんだけど…… 「どんな絵かいたのか、ちょっと見せてみろよ」 「え、でも……」 「いいからかせよ!」  そう言って無理やり絵を取り上げられた。  十勝君は、ガキ大将でいじめっ子。話しかけられる事はあっても、まずいやがらせが目的。だからぼくは、十勝君の事が苦手だった。  十勝君はしばらく、取り上げたぼくの絵を見ていたけど、やがて…… 「はははははっ、こいつ、今にもかれそうな木をかいてやんの! こんなのかいて、何が面白いんだか?」  えんりょ無しに笑い声を上げて、バカにしてくる。きっとどんな絵をかいたとしても、理由をつけてバカにされただろうから、気にしなくても良いのかもしれないけど、それでもやっぱりいやな気持ちになる。さらに。 「しかも何だよこの花? こんな変な花、本当にさいてたのか?」  青い花を指差して、またもバカにしたように笑う十勝君。これにはさすがににはらが立った。この花はあの木の精のおじいさんがさかせてくれたのに、それを変だなんて。 「変じゃないよ。とってもキレイな花なんだから」 「へえ? じゃあその花、見せてみろよ?」 「それは……」  そんなことを言われてもこまってしまう。だって案内したところで、十勝君にあの花は見えないはずだから。 「どうした? やっぱりデタラメかいてたのか?」 「ちがう!」 「ウソつけ。こんなウソっぱちの絵、こうしてやるよ!」  そう言って十勝君は手に力を入れて、絵をやぶこうとして来た。 「止めて!」  あわてて取り返そうとしたけど、十勝君は絵を持った手を上にあげる。十勝君はぼくよりもせが高いから、全然とどかない。 「返してよ!」 「それじゃあ取ってみろよ。出来るもんならな」  十勝君が意地悪な笑みをうかべる。  いくら手をのばしてもとどかない。このまま返してもらえないのかと、くやしい気持ちがあふれてくる。だけどその時。 「ちょっと、止めなよ!」  そんな声と共に、ぼくと十勝君の間に入ってきたその子は……一ノ瀬さん?
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