木の精のおじいさんと青い花

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 マヨちゃんと友達になってから、一週間がすぎた。あれからと言うもの、ぼくの学校での生活は大きく変わっていた。例えば…… 「コウ君おはよう」 「おはよう、マヨちゃん」  毎朝こんな風に、マヨちゃんとあいさつを交わすようになっていた。少し前まではあいさつをする相手も、してくれる子もいなかったから、これは大きな変化だ。  それどころかマヨちゃんとは、休み時間にもよく話をするようになっている。話すのは、前の日に見たテレビの事とか、勉強の事とか様々。そんな何でもない事が、なぜかとても楽しくて。ぼくは学校に行くのが楽しくなっていた。  あと、ちょっとだけ幽霊や妖怪について話すこともあるかな。こんな事を話せる相手なんてチョコをのぞくと、それこそマヨちゃんだけだから。何だかうれしい。  そして今日も、放課後ぼくとマヨちゃんは、体育館うらでチョコを交えながら話をしていた。 「マヨちゃんも、幽霊や妖怪が見えるのは、みんなには秘密にしてるんだよね」 「うん。言っても信じてもらえないし、変な子だって思われたらヤダもん」  その気持ちはよくわかる。どうやらこれは、見える人にとっては、よくある話みたいだ。 「人間は見えるモノが全てだって思ってるからこまるニャ。自分達が見えない存在なんて、いくらでもあるのにニャ」 「そうだね。ボクのおばあちゃんも、同じこと言ってた。そう言えば、ネコの世界はどうなってるの? ネコ達はボクやコウ君みたいに、見ることってできるの?」 「そりゃあ見えるニャ。ネコは人間とちがって頭でっかちじゃないから、より多くのモノを見ることができるんだニャ」  理由はよくわからないけど、とにかく見えるということはわかった。けど、ちょっとうらやましいな。みんなが見えるのなら、ウソつきって言われずにすむんだろうな。 「そう言えば二人とも、秘密にしてるなら、どうやって見えるって分かったニャ?」 「ああ、そう言えば話していなかったっけ」  前に話したのは、ぼくと同じく見える女の子と友達になったということだけ。理由は説明してなかった。 「この前あった写生大会で、公園に行って絵をかいてたんだよ。その時に木の精のおじいさんに会ってね」 「そのおじいさんが、花をさかせてくれたんだよ。で、コウ君がその花をかいているのを見て、ボクが気づいたの」  思えば、あの時花をさかせてくれていなかったら、ぼく達は今も友達になっていなかったかもしれない。おじいさんには本当に感謝している。 「今度また会って、お礼を言いたいな。あのおじいさんに」 「そうだね。いつかまた行ってみよう」  うなずきあうぼくとマヨちゃん。だけど話をきいたチョコは、むずかしい顔をしている。 「光太君。それって、町外れの公園にいる、木の精のおじいさんニャ?」 「そうだけど、チョコも知ってるの?」 「あの公園はアタシの散歩コースだから、あのおじいさんのこともよく知ってるニャ。けど、会いに行くなら早い方がいいニャ」 「どうして?」  そりゃ早いにこしたことはないけど。するとチョコは、言いにくそうに口を開いた。 「あのおじいさん、もう長く無いニャ。たぶん数日中には、消えてしまうのニャ」 「……えっ?」  チョコが言っていることの意味が分からなかった。消えてしまうって……  そしておどろいたのは、ぼくだけじゃなかった。マヨちゃんもまた、顔色を変えている。 「チョコ、どういうことなの? 何であのおじいさんが消えちゃうのさ⁉」 「もう寿命だニャ。人間と同じように、何にでも命はあるニャ。アタシ達妖怪にも、精霊にもニャ」 「それはわかるけど、ボクのおばあちゃんが言ってたよ。精霊は人間よりも、ずっと長生きだって」 「たしかにそうだニャ。だけどそれでも、終わりは必ず来るニャ。あのおじいさんは、それほど長い時間を生きてきたんだニャ」 「そんな……」  ぼくもマヨちゃんも、言葉を失う。  あのおじいさんと会ったのは、写生大会の時の一度だけ。それでも同じ時間をすごして、キレイな花をさかせてくれたおじいさんが消えてしまうというのは、とても悲しかった。 「なにさそれ。せっかく会えたのに、どうして……」  マヨちゃんは顔をゆがませながら、必死に何かにたえている。その様子を見て、ぼくは決心した。 「行こう、マヨちゃん」 「行くって、どこへ?」 「もちろん、あのおじいさんの所へだよ。今から行けば間に合うよ。もたもたしてたら、もう会えなくなっちゃうかも知れないんだよ!」 「う、うん……そうだね、行こう!」  すこし落ちこんだ様子だったけど、すぐにいつもの元気な調子にもどる。さあ、そうと決まれば急がないと。公園までは遠いからなあ。 「それじゃあアタシもついて行くニャ。あのおじいさんとは知らない仲じゃないしニャ」 「うん。それじゃあチョコも行こう。家に帰れば自転車があるから、ちょっと取ってくる。コウ君は自転車に乗れる?」 「平気だよ。それじゃあ一度帰って、自転車を取ってきて……集合場所はどこにしよう?」 「それじゃあ駅前。あそこなら分かりやすいし」  話がすむと、ぼくらはすぐにかけ出した。  体育館の横をぬけて、正門に向かって一直線。後ろチョコもトコトコとついてくる。チョコは、ぼくの自転車のカゴにのせて運ぼうか? そんなことを考えていると。 「あ、お前ら!」  正門に来た所で、聞き覚えのある声がした。見ると門のすぐ横に、十勝君のすがたがあった。 「なんだよ、また二人いっしょにいるのかよ。お前ら……つ、付き合ってるのかよ?」  例のごとくからんでくる十勝君。まさか、待ちぶせしてたわけじゃないよね?  本当なら十勝君のゴカイを、ちゃんとといた方がいいだろう。だけど今は、それどころじゃないんだ。 「ごめん、今急いでるから」 「話なら明日聞いてあげるから。じゃあね」 「ニャ!」  早々に切り上げようとするぼくら。だけどこれであきらめる十勝君じゃなかった。 「待てったら。そんなに急いでどこ行くんだよ?」 「めんどうくさいなあ。この間写生大会で行った公園だよ」 「何でまた?」 「急いでるのに……木の(せい)のおじいさんに会いに行くんだよ!」  しつこい十勝君に、ちょっとおこり気味に答えるマヨちゃん。って、ちょっと待って。そんな正直に言っちゃっていいの?
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