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木の精のおじいさんの事を、話してしまったマヨちゃん。だけど、良いのかなあ。秘密にしておきたいって言ってなかった?
「いいの? おじいさんのこと話しても」
「あっ……」
どうやら考えなしに、つい言ってしまったみたい。そして案の定、それを聞いた十勝君はキョトンとした顔をする。
「は、何だって? 木の精のじいさん?」
いきなりこんな話を聞かされても、何のことだかわからないよね。どう説明すればいいかわからずに、ぼくは焦る。だけどそうしているうちに、十勝君は何かに気づいたように笑い出した。
「ははっ、ははははっ、何言ってんだよお前ら。バカじゃねーの?」
「バカって何さ?おかしな事なんて言ってないじゃない!」
まゆ毛をつり上げるマヨちゃん。だけど十勝君はやっぱり、バカにしたみたいに笑ってる。
「だって木の精なんているわけねーもん。そうせ光太がまた、変なこと言い出したんだろ」
「コウ君はウソなんて言ってないよ!」
「お前、転校してきたばかりだから知らないんだろ。そいつよく、そういうウソをつくんだぜ。黒いモヤを見たとか、毛もくじゃらのお化けが出たとか。なあ、どうせそのじいさんも、本当はいないんだろ?」
バカにしたような目を向けられて、思わず小さくなってしまう。
ぼくがよく変なことを口にするのは本当。本当は秘密にしたいけど、さっきマヨちゃんがそうしたみたいに、つい言ってしまう事はあるんだ。
だけど決して、ウソなんて言っていない。ぼくにはちゃんと、それらが見えるんだから。だけど見えない人達に、信じてもらうなんてできなくて。ぼくはウソつきのレッテルをはられている。だけど……
「いいかげんにしなよ! コウ君にあやまって!」
「あやまるのはそいつだろ。ウソつきなんだから。さっさとあやまれよ。木の精なんていません、全部ウソでしたって」
ちがう。ぼくには……ううん、ぼく等にはちゃんと見えているんだ。信じてもらえなくったって、ウソつきと言われたって、それらをいないことになんてしたくない。
あの木の精のおじいさんはもうすぐ消えてしまうのだとしても、ぼくのために花をさかせてくれた。だから、だからぼくは……
「……いるよ」
「はあ? お前まだそんなこと言うのかよ?」
「だって本当のことなんだもの! 十勝君には見えなくても、たしかにそこにいるんだ!」
木の精のおじいさんを、いなかったことになんてしたくない。
こんなことを言ったら、ますます変なヤツだって思われるかもしれない。イジメられるかもしれない。だけど、これだけは譲りたくないんだ。
すると思った通り、十勝君はおこった顔をしながら、ぼくの服のエリをつかんできた。
「ウソつけ、そんなわけあるか !ウソだって言えよ!」
「いやだよ !ウソなんて言っていないもの! 」
「お前!」
顔を真っ赤にした十勝君が手をふり上げる。
なぐられる。そう思ったぼくは思わず目をとじた。
「ちょっと、止めなよ!」
止めようとするマヨちゃんの声が聞こえたけど、とても間に合わない。いよいよなぐられるとを覚悟したその時……
「ニャーーッ!」
「わっ、何だよコイツ⁉」
ゲンコツの代わりに、聞こえてきたのは、ビックリしたような十勝君の声。え、何が起こったの?
おそるおそる目を開けてみると、そこには十勝君に飛び付いたチョコのすがたがあった。
「チョコ?」
チョコが助けてくれたの?
するとチョコは十勝君からはなれて、ぼくとマヨちゃんに見線を送る。
「さあ、今のうちににげるニャ!ぐずぐずしてたら日がくれちゃうニャ!」
そうだ。早くしないと行けなくなっちゃう。
「行こう、コウ君!」
「うん、ありがとうチョコ!」
お礼を言って走り出す。十勝君は当然追いかけてこようとしたけど、またしてもチョコが飛びかかり、顔にはり付いた。
「何なんだよこのネコ。おい、待てったら!」
「ニャーッ! ニャーッ!」
十勝君のさけぶ声が後ろから聞こえてきたけど、それもだんだん遠ざかっていく。どうやらチョコが、上手く足止めしてくれたみたい。
「チョコに助けられちゃったね」
「うん。でも平気かな? ひどい目にあわされてなければ良いんだけど」
ちらりと後ろをふり返ったけど、もうチョコのすがたも、十勝君のすがたも見えない。
「きっと平気だよ。チョコ、ああ見えて強いもん」
「そうだね……でも、ごめんね。ぼくが強ければ、もっと上手く何とかできたかもしれないのに」
マヨちゃんは平気だって言ってくれたけど、ぼくが弱いばっかりにチョコをあぶない目にあわせてしまったのはたしかだ。もっと強かったら良かったのに……
「何言ってるの?コウ君は強いじゃない」
「強いって、ぼくが? そんなこと無いよ」
弱いから、いつも十勝君にイジメられて、マヨちゃんやチョコに助けられているんだ。ぼくは本当に弱い。
だけどマヨちゃんは、走りながら首を横にふる。
「ううん、強いよ。さっき十勝君に、木の精のおじいさんは本当にいるって言ったでしょ。あれって、ウソでもいないって言いたくなかったんだよね?」
「うん、そうだけど」
「おじいさんをいないことにしたくないだなんて、コウ君はやさしいよ。それで、これはボクのおばあちゃんが言ってたことなんだけどね……」
マヨちゃんはピタリと立ち止まって、ぼくも足を止めて向き合う。するとニッコリと笑いながら、ぼくをのぞきこんでくる。
「強い人がみんなやさしいわけじゃないけど、やさしい人はみんな、何かしら強さを持ってるんだって。コウ君はやさしいから、強いんだよ」
強いなんて、初めて言われた。お日さまみたいな笑顔を向けられて、くすぐったい気持ちになる。だけど悪い気はしない。
「……マヨちゃんも」
「え、なあに?」
「マヨちゃんも、強くてやさしいよ。たぶんぼくが今まで会った人の中で、一番……」
ちょっとはずかしかったけど、思ったことをちゃんと言ってみる。マヨちゃんはキョトンとした様子だったけど、すぐにまた「あはは」と笑い出した。
「そっかそっかー。あはは、ありがとね。お世辞でもうれしいよ」
マヨちゃんは本当に楽しそうに笑う。本当のことなんだけどなあ。まあいいか、喜んでるみたいだし。
無邪気に笑うマヨちゃんは、キレイでまぶしくて。見ていてまた、温かな気持ちになった。
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