木の精のおじいさんと青い花

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 気がついた時には、あんなにあった花は全てちってしまっていた。  おじいさんのすがたは、もうどこにも無い。花といっしょに消えてしまったのだろう。それはとても悲しいけど、泣いちゃダメだ。ぼくは息を飲みこんで、となりを見る。 「……帰ろうか」 「……うん」  二人そろって木に向かって一礼してから、後ろをふり返る。気がつけば、辺りは暗くなりかけていた。 「二人とも急がないと、お家の人が心配してるニャ」 「そうだね。早くしないと、おこられちゃうよ」  ぼくもいつもなら、家にいる時間だ。だけど、急ごうと足をふみ出したその時…… 「おいお前ら!」  何だかとっても聞き覚えのある声。  なぜかそこにいたのは、学校で別れたはずの十勝君だった。 「あれ、十勝君? なんでこんな所にいるのさ?」 「それは……たまたま通っただけだ」  きっとウソだ。ここは学校からはなれているし、たしか十勝君の家も反対方向だったはず。  もしかしてさっき公園に行くって言っちゃってたから、追いかけて来たのかな? たぶんそうなんだと思う。 「そんなことよりお前ら、さっきのアレは何だよ?」 「アレって言うと……どれ?」 「だからー、なんでこんなかれた木に、いきなり花がさいたんだよ⁉」  イライラしたような声を上げる十勝君。何でって、それは木の(せい)のおじいさんがさかせてくれたからで……えっ、ちょっと待って。  思わず顔を見合わせるぼくとマヨちゃん。さっきの花、十勝君にも見えたって事? 何で⁉  もしかして、アレはみんなに見えるものだったのかなあ? でも、他の人がさわいでるようには見えなかったし。  首をかしげていると、十勝君は、おこったように声を出す。 「何だまってんだよ。説明しろよ!」 「ええと、それは……」 「もう、いちいちおこらないでよ! わけならちゃんと説明してあげるから!」  すごまれて、「おぅ」と声をもらし、小さくなる十勝君。そしてマヨちゃんはこう付け加えた。 「ただし、信じられない話かもしれないけどね」  マヨちゃんの言う通り、信じてくれるかどうか。もし信じてくれなかったら、またウソつきよばわりされるのかな? だったらいやだなあ。  早く帰らなきゃいけないのに、とんだ足止めを食らってしまった。  ぼく達はベンチにこしを下ろしながら、十勝君に何があったかを、かくさず話すことにした。 「つまりね。さっきの木には精霊のおじいさんが住んでいたんだけど、もう寿命で消えなくちゃならなかったの。だけど力をふりしぼって、最後に花をさかせてくれたってわけ。わかった?」  マヨちゃんの説明に、ポカンとした様子の十勝君。まあそんな風にもなるよね。それはそうと、ぼくはヒザの上で丸くなっているチョコに、気になっていることを聞いてみた。 「ねえ、どうして今回は、十勝君にも花が見えたんだろう?」 「見えないはずの人間が見えることって、実は以外とあるのニャ。そうでないと、幽霊や妖怪の話がたくさんあることの説明がつかないニャ」  たしかに。ぼくやマヨちゃんみたいな見える人以外が、それらを一切分からないならお化けや幽霊を見たなんて話はそうそう無いはず。あったとしてても信じてもらえずに、すぐわすれられてしまうだろう。 「たぶんあの子、どこかにかくれて光太君達の事を見ていたんだニャ。力をこめて見てる時に、花を見せたいって言うご隠居さんの想いが重なって、見えたんだと思うニャ」 「つまり、見る側と見せる側の気持ちが強ければ、見えるってこと?」 「分かりやすく言えばそうニャ。必ず見えるわけじゃないし、他にも場合によっては、見えることもあるけどニャ。けどそれは一時的なもので、十勝君はもう、見ることは出来なくなってるはずニャ」  そうなのか。まだ見えるのなら、信じてもらえるかもしれないけど、そういうわけにはいかなさそうだ。そんな事を思っていると…… 「おい光太、ネコなんかに話しかけてないで、お前もちゃんと話せよ」  十勝君がそんな事を言ってきた。この様子、どうやらチョコがしゃべっているようには聞こえていないみたい。 「十勝君。このネコ、変な所って無い?」 「はあ?ネコなんて今はどうでもいいだろ。そいつ、学校で飛びかかってきたネコだよな。変っていや、へんちくりんな顔をしてはいるな」 「ニャんだとー!」  二本あるシッポを逆立てながらおこるチョコを、ぼくはあわてておさえる。話の続きは、マヨちゃんにまかせた方が良さそうだ。 「そのネコ、十勝君にはふつうのネコに見えてるだろうけど、本当はネコマタって言う妖怪なの。さっきもただ鳴いてただけじゃなくて、ちゃんとしゃべってたんだよ。それで今は、へんちくりんって言われておこってる」 「マジかよ? いや、でもそんなわけ……そもそも何で真夜子は、そんな事がわかるんだよ?」 「ボクはそういうモノが見えるし、声だって聞こえるの。なぜって言われても分からないけど、昔からこうだったんだよ。だから木の(せい)も、見ることができたんだ」  どうよと言わんばかりにむねをはるマヨちゃん。だけど十勝君はまだ首をかしげている。 「その話が本当なら、そのネコしゃべれるんだよな? なのに何でオレには何も聞こえないんだ? さっきの花は見えたのによ」 「さっきのはたまたま偶然が重なって見えただけで、十勝君が見えるようになったわけじゃ無いって、チョコが言ってた。ぼくにもよく分からないんだけどね」  くわしい理由なんて、きっとだれにも説明できないだろう。たしかなのは、十勝君は今まで通り、見る事ができなければ声も聞けないと言うことだ。こんなんで、分かってもらえるだろうか? 「どう、信じてくれた? って、いきなりこんな話をしても、無理だよね」  しょうがないといった様子で、かたをすくめるマヨちゃん。十勝君はその様子をじっと見つめていたけど。 「……信じるよ」 「えっ、今何て?」  ぼくは耳をうたがった。あんなにぼくの事をウソつきよばわりしていたのに。見るとマヨちゃんも、ビックリしている。 「ウソ、本当に信じてくれるの?」 「だからそう言ったじゃねーか。正直よくわかんねー事ばかりだけどよ、真夜子が本気で言ってるのはのは、わかったから……信じてやるよ!」  本当に、信じてくれるんだ。  驚いたぼくは、チョコをおさえる手をゆるめて、マヨちゃんと顔を見合わせる。チョコもポカンとしていて、悪口を言われた事なんてどこかへ行ってしまったようだ。  ぼくは未だに、自分の耳をうたがっている。だけどこうして信じるって言われた事が、今までウソつきだって言われ続けてきたぼくには、とてもうれしかった。
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