トライアングル・ライツ

1/16
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

トライアングル・ライツ

「頼む。式には来ないでくれ」  親友の口から出た一言に一瞬、言葉を失った。頭の奥がじんと冷たくなっていくのに、スマホを当てた耳はやけに熱かった。 「確かにそうだよな。分かった」 「……悪い」  電話越しから聞こえる恭介の沈んだ声は罪悪感を帯びていた。苦渋の決断だったことが伝わってきて、逆に申し訳ない気持ちにさせられる。ガキの頃から中学卒業まで一番近くにいた存在に「結婚式に来るな」なんて余程のことがなければ言えるものではないし、むしろ親友にそう言わせてしまっている自分自身に罪悪感を感じてしまう。 「気にするなよ。とにかく結婚おめでとう」 「ああ、ありがとう。……夜遅くにごめんな」 「全然。久しぶりに声が聞けてよかったよ。東京に来ることあったら連絡しろよな。その時は盛大に祝ってやるから」 「分かった。楽しみにしとくよ」  その後、二言三言の会話を交わして電話を切ると、そのままベッドに倒れ込んだ。仕事の疲れからか体の芯から深く沈んでいきそうだ。次第に霞んでいく視界の中で、恭介の言葉を反芻する。仕方ないよな、と自分に言い聞かせる。 それでも——
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!