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強襲(2)
打ちつけた後頭部を抱えながら、恐る恐る舞子の様子を窺う小林。だが彼が真の恐怖に震えるのはここからだ。
小林は声を出すのも忘れ、眼前の相手の姿にすくんでしまった。
ザッ……ザッ……ザザッ……
枯葉を踏みしめる音。普段の穏やかで優しい表情を捨て去り、鬼の形相になった舞子が、小林にゆっくりと近づいて来ていたのだ。
長い髪がすっかり顔を覆った様子は、まるで黒一色の凶暴な生物のよう。わずかな髪の狭間からは怒りに打ち震えて充血した瞳と、強く噛み締めて血の滲んだ唇が覗いている。
やがて、まるで小さな地響きにも似た声?……のような重低音が、小林の耳に届いた。
ユル、サナイ……
サバイテ、ヤル……
あまりの凄み、不可思議な舞子の姿に小林は怯える。
「ひっ、ご、ごめ……」
ユル、サナイ……クソ、クラエダ
普段の舞子ならまず口にしない汚い言葉。さすがの小林もじりじりと後退するが、舞子は急に意識消失し、膝から崩れてドサリと草の上に倒れ込んだ。
「……んだよ脅かしやがって。にしてもコイツ危ねえ女だな。日向に知らせねえと」
それでもなお既成事実を作ろうと、気絶した舞子を犯そうと体を抱き起こす小林。その時だ。
おおおんおおおん……
おおおおおおおおおおん……
おおおおんおおおおおおおん……
形容し難い不快な周波数の低音に、耳を破壊するサイン波の高音が混じったような、不気味な音が聞こえてきた。
否、それは音なのかも判然としない。風といえばそうかもしれないし、足元から伝わる振動もある。仮に周囲に人がいたとして、果たして自分以外に聞こえているのかと小林は感じた。
それは何故か、小林自身の脳内にだけ響くような振動と痛みを伴っていたからだ。頭を揺さぶる違和感。彼は本能的な危険を感じて舞子を離す。我に帰る。
が…遅かった。
10分後の彼は、早く立ち去っておけばと激しく後悔することになる。
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