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入学
1か月ほど前の4月、桜が散る頃。桜樹舞子と一ノ瀬蕾香は、名門と言えぬまでも誰もが知る程度には有名な女子短大に入学した。2人は小学校からの幼なじみだ。
春のキャンパスは、様々な部活やサークルが手ぐすね引いて新入生を待っている。好奇心旺盛な蕾香はさっそくサークルを物色する。
「ね舞子、せっかくまた同じ学校に通えるんだから、一緒にどこか入ろうよ」
「えー、私はあんまり」
「だから出会いがないんだよ?舞子は可愛いの、ちょっと本気出せばモテるのに」
「でも女子大で出会い?」
「へへ、それがね」
蕾香は舞子の手を引いて正門に向かう。肩までのロングヘアや、やや長身の背格好こそ似ているが、アイドル系で可愛らしく開放的な蕾香に、美形だが陰キャで損することが多い舞子。対照的な2人、リードするのは常に蕾香だ。
果たして、正門は大騒ぎだった。いわゆるインカレサークル、他校の男子学生が勧誘に押し寄せている。ここの女子大はそうした意味でも人気なのだ。
「ねえ彼女!テニスどう?」
「漫研でーす!君可愛いね、漫画上手そうじゃない?」
「バンドやろうよ、ウチは練習より打ち上げ重視!」
要は女の子の調達部隊。誘い方があからさまに恣意的で、グループの一番可愛い娘を中心にフライヤーを渡している。
舞子と蕾香の場合、誘いは蕾香に集中していた。
「私テニス上手いよ、スマホならねっ!漫画は見るだけですぅー!」
断り方も可愛い。昔からモテる蕾香は流石に人あしらいが上手だと、舞子は羨望の眼差しを送る。付き人状態の舞子もそれなりに楽しんでいるうち、蕾香は「インカレサークル・S」というサークルに興味を持った。
「ね舞子。どうこれ?」
「どうって……何やるとこなの?」
「なんでもやるみたいだよ。サークルなんて楽しきゃいいのよ」
舞子とて、大学生になってちょっとは浮かれている。
「蕾香が一緒なら、入ろうかな」
「やったあ!実はね、勧誘の男の子たちがなかなかのイケメンでさあ」
「いや私そういうのは」
「だーかーらー、それがダメなんだって!まずは誰かと付き合ってみなさいって」
「なんでいきなり付き合う話になるのよ!もー」
せめてここで時が止まっていればと、未だに舞子は思う。舞子が夢に見る蕾香は、この時の笑顔なのであった。
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