事件(1)

1/1
前へ
/9ページ
次へ

事件(1)

 5月のGWに、サークル・Sのイベントが行われた。クラブを借り切って馬鹿騒ぎするだけの話だが。  怪しげな光が交錯する暗い会場。あちこちで男女がくっつく様子に、舞子はいたたまれなくなる。そのうち、巨漢の逞しい男子学生が舞子の腕をがっちり掴んだ。 「あの私、こういう雰囲気ちょっと……」 「いいじゃん、蕾香ちゃんが凄い人気だけどさ、俺は舞子ちゃんの方がタイプなんだよね。清純派っていうの?」  とりあえず相手がいればいいというテイの軽さ。免疫のない舞子は困惑と恐れと若干の嬉しさが入り混じるが、それに気づいた蕾香が乱入する。 「こらー!舞子はマネジャーの私を通せって言ったでしょお!」 「ちょっと蕾香、飲んでるの?」 「あははー」 「ダメだよ、もう帰ろう蕾香」  舞子は蕾香の腕を引くが、図抜けて可愛く華のある蕾香は、新入生の中でも特別。誰が落とすかでサヤ当てが始まっており、ここで帰すまじと数人の学生が取り囲んだ。 「まあまあ、舞子ちゃんもカタいこと言わないでさ」 「夜はこれから!」  盛り上がりの輪に押し戻される2人。その時、長身を折り曲げ、三白眼で舞子に耳打ちする学生がいた。 「調子乗んなよ地味子。釣り餌の分際でよ…帰るなら1人で帰れ」 (え、怖い……)  舞子は恫喝に動揺し足がすくむ。先程の男にも劣らないマッチョな彼は、日向(ひゅうが)耀太(ようた)。スポーツで有名な私大の2年生で、サークル・S主催グループの筆頭格だ。そして、蕾香が勧誘の時に惹かれた「イケメン」でもある。  裕福な育ちで頭も良く統率力もある。取り組んでいるボクシングではミドル級のホープと目され、人生の表街道を大手を振って歩いている。  そんな彼の粗暴な一面。不信と恐怖から舞子は本気で帰りたくなるが、お姫様状態で上機嫌の蕾香を置いていくのも嫌な予感がして、渋々残った。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加