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事件(1)
5月のGWに、サークル・Sのイベントが行われた。クラブを借り切って馬鹿騒ぎするだけの話だが。
怪しげな光が交錯する暗い会場。あちこちで男女がくっつく様子に、舞子はいたたまれなくなる。そのうち、巨漢の逞しい男子学生が舞子の腕をがっちり掴んだ。
「あの私、こういう雰囲気ちょっと……」
「いいじゃん、蕾香ちゃんが凄い人気だけどさ、俺は舞子ちゃんの方がタイプなんだよね。清純派っていうの?」
とりあえず相手がいればいいというテイの軽さ。免疫のない舞子は困惑と恐れと若干の嬉しさが入り混じるが、それに気づいた蕾香が乱入する。
「こらー!舞子はマネジャーの私を通せって言ったでしょお!」
「ちょっと蕾香、飲んでるの?」
「あははー」
「ダメだよ、もう帰ろう蕾香」
舞子は蕾香の腕を引くが、図抜けて可愛く華のある蕾香は、新入生の中でも特別。誰が落とすかでサヤ当てが始まっており、ここで帰すまじと数人の学生が取り囲んだ。
「まあまあ、舞子ちゃんもカタいこと言わないでさ」
「夜はこれから!」
盛り上がりの輪に押し戻される2人。その時、長身を折り曲げ、三白眼で舞子に耳打ちする学生がいた。
「調子乗んなよ地味子。釣り餌の分際でよ…帰るなら1人で帰れ」
(え、怖い……)
舞子は恫喝に動揺し足がすくむ。先程の男にも劣らないマッチョな彼は、日向耀太。スポーツで有名な私大の2年生で、サークル・S主催グループの筆頭格だ。そして、蕾香が勧誘の時に惹かれた「イケメン」でもある。
裕福な育ちで頭も良く統率力もある。取り組んでいるボクシングではミドル級のホープと目され、人生の表街道を大手を振って歩いている。
そんな彼の粗暴な一面。不信と恐怖から舞子は本気で帰りたくなるが、お姫様状態で上機嫌の蕾香を置いていくのも嫌な予感がして、渋々残った。
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