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事件(2)
嫌な予感は当たる。集団が無秩序になった頃、日向ら数人の学生が白い大きなオラオラ系ミニバンに、勢いに任せて半ば無理やり舞子と蕾香を押し込み、会場を後にしたのだ。
かなりのスピードで1時間ほど走り、車は峠道に差し掛かる。道路が暗くなるごとに目がギラギラしてくる男達の様子を察し、蕾香は済まなそうに舞子にささやく。
「ごめんね、なんかお約束で。でも舞子は無事に帰すから」
「何言ってんの、2人で降りよう、私もうイヤだよ」
そのうち、2列目シートで蕾香の肩を抱いていた日向が、彼女に強引にキスしようとする。舞子は3列目から慌てて間に割って入った。
「あ、あの!私たちもう帰らなきゃって話してたとこで、降ろしてもらえませんか?」
普段は紳士な日向が、あの粗野な声で返す。
「だからふざけんなって。なら楽しんでから叩き落としてやんよ。醒めるんだよ、お前みたいな陰キャ」
怯える舞子をかばうように、隣の席にいたクラブで声をかけてきた大男……小林が口を挟む。
「おい日向そりゃねえだろ、俺はこの娘がいいんだよ。いい体してんぜ」
「相変わらず趣味悪いな小林は。んじゃお前、小林として動画を撮らせろ。そしたらここで2人とも降ろしてやるよ」
「そんな、私そんなこと……」
顔面蒼白の舞子。見かねた蕾香が口を挟む。
「ああもう、その娘は無理!田舎根性丸出しでさあ。うあ、ちょっと待って私トイレ!止まれー!はーやーく!」
ハイテンションで友達の舞子を悪様に言う蕾香に、男たちは下卑た笑いを浮かべる。
「しょうがねえなあ、お姫様は。おう小室、見張れや」
蕾香は黙ってない。
「見張り?こんな山の中で逃げないし!ちょっとこの田舎女と話もあるからさ」
峠の少し開けた場所に車は止まる。見た目が最もチャラい運転手の小室が降りて監視する中、蕾香と舞子はガードレールを越えて深い茂みに入った。
「ごめんね、私要領悪くて」
「違うの。私のせい。舞子の言うこと聞いてれば……このまま逃げて」
「やだ、できないよそんなこと」
「2人で逃げたら逆に何されるかわかんないし、どうせどっちかは捕まるよ。私なら大丈夫、前もこんなことあったし、男なんて済めばおとなしくなるから」
「ダメだよ、それじゃ蕾香が。お願い一緒に……」
「いいから早く!あーもうあんた優しすぎ!」
蕾香は舞子を急斜面に蹴り落とす。10mほど転がり落ちた舞子は、痛みに耐えながら呆然と蕾香を見上げた。スマホや財布の入ったバッグは車の中だがどうしようもない。舞子はせめて早く警察を呼ぼうと、追跡されぬよう一本道の車道を横断しながら山を降りた。
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