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息苦しさを感じて目覚めると、見慣れない天蓋が目に入った。
ここは……どこだっけ。ああ、そうだ、青孤さんの。
そこまで思い出すと、あとは堰を切ったように記憶の濁流が流れ込んできて、頬がかっと熱を持つ。
陽光は史緒を胸に抱き込むように寝ていた。
――夢じゃない、か。
確かめるまでもなく、体のあちこちがあられもない体勢を取らされたことを抗議するかのように痛んで、昨夜の出来事が現実だと告げてくる。
ところで、今は何時なんだろう。
朝になれば、小川家の使用人が身の回りの世話をしにやってくるはずだ。それまでには起きないと。
「……たかとう、……」
軋む体を起こしかけたとき陽光が何事か呻く。
――夢の中でまで、俺の名を?
「……」
あと少しだけ。こいつが離さないから、仕方なく。仕方なくだぞ!
誰にともなく言い訳して、再びたくましい腕の中に潜り込んだときだった。
なにやら部屋の外が騒がしい。
まさかまた火事ということもないだろうが、と訝しんでいる間にも、荒々しい足音はこちらにどんどん近づいてくる。
「どこだ!」
「そちらのお部屋でございますが、こんなお時間ですから」
「何時だろうと、こんなところに置いておくわけにはいかん! 活動なんて、くだらないものにかかわりおって」
居丈高に怒鳴り散らすその声には、確かに聞き覚えがあった。それが誰かと思い至ると、さっきまで体を包んでいた甘い倦怠が、朝靄よりもあっけなく霧散する。
痛みも忘れて寝台から這い出ると、乱れた浴衣の襟元を合わせた。
「たかとう?」
突然ぬくもりが失われたことを訝しむように陽光が呟くのと、乱暴にドアが開かれたのは、ほぼ同時。
「史緒!」
「――父上」
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