死に場所

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「あんたは……」 病室の入り口に立っていたのは、あの女だった。あの日、橋から飛び降りようとしていたのを助けた、名前も知らない女。 彼女は真っすぐ俺を見つめていた。あまりの真っすぐさに俺は思わずのけぞってしまったが、ふと彼女が胸元に小さな花束を抱えているのに気がついた。 ああ、そういうことか。 彼女は俺の傍までやって来ると、 「本当にありがとうございました」 と頭をその高い腰の位置まで下げた。長い黒髪が窓から差し込む光を弾いて、とてもきれいだと思った。 彼女はゆっくりと頭を上げ、花束を差し出した。その瞳は生まれ変わったかのようにきらきらしていて、あの橋の上で見たのと同じものとは思えなかった。 死に損ない二人は、こうして病室での対面を果たした。なんて奇妙なんだろう。 でも。 死に損なったおかげで見られたものがある。 これも悪くない。俺は花束にそっと手を伸ばした。
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