死に場所

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あの親子と別れた後、俺は当てもなく見知らぬ街をさまよっていた。いくつもの車とすれ違ったが、何となく違う方法がいい気がして、突っ込もうとは思わなくなった。あのとき子どもが飛び出して来なければ。とんだ水差しを食らったもんだ。 俺の人生、つくづく他人のトラブルに巻き込まれてばかりだった。大人になってからだけじゃない。子どもの頃からそうだった。 あれは小学生のころだったか。クラスのいたずらっ子たちが風船を水道で膨らまして破裂させて廊下一面が水浸しになり、偶々そばを通りかかった俺も犯人たちと一緒にずぶぬれになった。おかげで騒ぎを聞きつけてやってきた他のクラスメートたちからいたずらに加担したと誤解されてしまった。特に女子からは非難轟轟で、しまいには無実の主張を一切認められず、問答無用で教師から雷を落とされた。 俺の人生は誰かに邪魔され続けることが宿命づけられていたんだろう。もう面倒ごとに巻き込まれるのはまっぴらだ。さっさと一人で死んでしまおう。死に場所を求めて俺はさまよい続けた。そして陽がたっぷり傾いたとき、左右に二車線ずつ車が走っている、大きな橋に出くわした。 橋の下に、電車4,5両分ほどの幅を持つ川が身を横たえていた。茜色に染まりながら、ゆるゆると流れていた。その姿を一目見て、ここだ、と思った。面倒ごとやしがらみを、俺のこの身体、そして命とともに全て水に流すのだ。そう心に決めた。 人生の最後の幸いか、橋を渡る人は車の量に反比例してほとんどいなかった。俺は橋の中ほどまで進み、欄干に手をかけた。慈愛など感じられない鉄の冷たさに身体がぞくりとした。 ……これでいい。何物にも邪魔されず、ただ逝くのだ。片足を欄干にひっかけようした、そのときだった。 夕陽に代わって辺りを照らす街灯の明かりのもと、足元の地面に影がゆらめくのが見えた。
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