第2章

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第2章

 待ち合わせの時間に晩翠通(ばんすいどお)りのコンビニ前に立って、深海のような蒼穹(そうきゅう)から地球上のすべての生命を育む陽光を感じていた。もちろん太陽は無言のまま膨大なエネルギーを地球に放射しつづけ、決して地球の生物に対してなにかを要求することはない。ワタシはママのような無限の愛情を太陽に感じていた。  しばらくしてグレーのスーツを着た中年男性が醜い笑顔で近寄ってくると、アネモネさんですかと尋ねてきた。ブルーのキャスケットをまぶかにかぶっていた顔をあげて頷くと、中年男性はじっとワタシの顔と全身を舐めるように熟視(じゅくし)してから、黄ばんだ歯を覗かせ声を細めていった。    ──きみ可愛いね、5万円でいいんだね!  出会い系アプリでのワタシの最低条件は、5万円だった。相場が2、3万円ほどだったので、金に余裕がない男からは生意気だと非難を浴びたが、金のある男からはかえってそれなりに支持された。  すぐにワタシと中年男性は、晩翠通りから一歩なかへ入っただけのホテル街エリアにある高級そうな白い洋風のラブホテルに入った。中年男性はとても上機嫌で、何度もくり返し、可愛いねとヤニで黄ばんだ歯を覗かせながら醜く微笑んだ。  ワタシはホテルに入る瞬間に空を見あげて太陽の表情をたしかめたが、ちょうど薄い雲に覆われて表情が見れなかった。太陽は、こんなワタシを見たくなかったのかもしれない。  裸になって、中年男性と浴室でシャワーを浴びているあいだも、左手首の白いサポーターははずさなかった。中年男性はあまり気にしていないようだったので安堵した。  中年男性は、金を払うからまた会おうと誘ってきたが、同じ男と繰りかえし会わないことにしていたので即座に断った。自分の娘のような年頃の若い女を平気で抱ける男を、有象無象の中の最低なウゾウムゾウだと思っていたから。  しかし、ワタシはその最低なウゾウムゾウからお金をもらって生きている、もっとも最低なウゾウムゾウなのだが……
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