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第3章
ラブホテルから出ると、すっかり空は一面に暗灰色の雨雲に覆われ雨が降りはじめていた。すぐにワタシは、ウゾウムゾウの中年男性から逃げるように駆けだした。背後から男の大きな罵声が聞こえたが、もちろん無視をした。
晩翠通りから一番町商店街へ向かって走っているあいだ、ブルーのキャスケットをぬいだ顔面に雨粒が当たって、涙まで流してくれた。
この地球では、むかしから雨は循環している。だから「森」に降った雨も、樹々が雨滴を吸収しやがて蒸発して水蒸気になる。でも水蒸気もそれだけでは雲になれない。空気中のちりやほこりにくっついてはじめて雲になれる。そしてその雲から、また雨が地上へと降り注ぐ。
ワタシたち生物も、太陽の光がなければすべては成り立たない。恒星である太陽の光がワタシたちを育んでいる。
それは宇宙の声。
ひとつの宇宙の照明がすべてを照らしている。
まことのひかりが……
ずっとワタシは、まことのひかりをさがしてきた。
一番町のアーケード商店街まで走った。お気に入りの小犬のイラストが描かれたタオルハンカチで濡れた髪をぬぐい、ブルーのツバの短いキャスケットをまぶかにかぶった。
ショーウィンドウに映ったワタシは、濡れた野良猫みたいだった。
お気に入りの仙台三越の地下1階の食料品売り場で、新作のショートケーキを二つ買った。ママと一緒に食べようと思ったから……
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