第3章

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 仙台三越を出てから、都会に浮かぶ湖のような欅並木(けやきなみき)に覆われた定禅寺通(じょうぜんじどお)りの中央分離帯にある遊歩道を歩いた。欅の一本一本はとても(たくま)しく、暗灰色の太い幹から分かれた枝々に茂る豊潤で濃密な葉叢(はむら)は、おおかたの雨もふせいでくれる。  欅の葉叢が風に揺れた。欅たちが何か囁いているように錯覚する。いつもここに来ると、日常生活の(わずら)わしさや辛さを忘れさせてくれる何かがある。もしかしたら双子のもうひとりの兄弟にも、こんな場所で会えるのではないかと思った。きっと兄弟も欅たちの囁きに耳を澄ませたいと願うだろう……  しかしママは、双子の兄弟について詳しいことを教えてくれたことはなかった。
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