0人が本棚に入れています
本棚に追加
「あら・・・・貴方。まだそんなところにいたのね」
どのぐらいの時間が経っていたのだろうか・・・・60分かもしれない。彼女はそういって私の横に座った。・・・・どの面をさげて私の横に座るのか、女心が分からない僕には全く分からなかった。しかし、僕は最後に罵声を浴びせられると分かっていても、彼女との1分程度のこの会話が好きだった。
「あの人に60回もすれ違ったのに・・・・すぐに居なくなってしまうのよね」
彼女は残念そうに言った。・・・・どうやら彼女も彼にはアプローチが出来ていないようで、なんとなく安心したのだった。
「彼は凄く足も長いし、歩くのが速いからね。僕が1周している間に、彼は3600週ぐらいしてそうだ」
本当に彼は凄いと思う。だって僕じゃ1日に数十周しか回れないのに、彼は8万6千4百周もするんだ。
「はぁ・・・・貴方は悔しくないの?」
そういって彼女は僕に聞いてきた。
「悔しいって何に?」
「だって、貴方が1日で歩ける距離よりも、彼の距離のほうが多いのよ?むしろ私のほうが貴方よりも歩いているのだし・・・・貴方も少しくらい多く歩いてみようとか、頑張ってみようとか・・・・感じないの?」
ああ・・・・そんなことか。何回目のやり取りかは分からないけれど、彼女は僕に少し頑張って欲しいのかもしれない。けれど、僕の答えは決まっていた。だから、彼女にずっと同じことを伝える。
「僕は、彼とは違う。価値観や考え方も。だから、僕は、このままの僕でいくよ」
そういうと彼女はスッと冷めた表情で僕を見た。
「そう・・・・いつも貴方は同じことを言うのね。いいわ、貴方のことなんてもう知らないわ!貴方なんて嫌いよ!さようなら!」
そういって彼女との1分のやり取りは終わり、僕は再び思考の海に沈みながらゆっくりと歩いていく。
最初のコメントを投稿しよう!