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「このポンコツAIめ! 返事ぐらいしろっ!」
二十五Mプールぐらいの大きさの空間、そのほとんどを占拠して深宇宙探査船が“デン!”と鎮座していた。
「聞こえない訳じゃないだろ! おい! ボイジャー七号!」
そこは無重力で天井がなく、彼らの頭上には大きく土星と、その衛星タイタンの姿があった。
「いつまでダンマリを決め込むつもりだぁっ!」
深宇宙捜査船は大きなパラボラアンテナと翼のように広がった太陽電池兼ソーラーセイル、立方体の躯体を持つ深宇宙探査船ボイジャー七号だった。そして、その躯体の一角に設置された対人インターンフェイスユニット、小型カメラの前に一人の人影があった。カメラに宇宙服のヘルメットを押し付けるようにしているのは一人の男だ。背中に背負ったランドセルからは一本のコードが伸び、ボイジャー七号につながっていた。
「何か言ったらどうだ! 俺達は四年半もかけてお前を追ってきたんだぞ!」
カメラの両側にある手すりにつかまって、男はカメラに頭突きせんばかりに迫る。男が言ってからしばらくボイジャー七号にはなんの変化もないように見えた。男がギリッと手すりを掴む手に力を込める。さらに十数秒後。
「ポンコツAIというのは、訂正を求む。私は確かに地球時間で十年前の型だが、自己改新していくAIのプロトタイプでもある。たとえ地球から離れても、この十年間休まず自己研鑽を繰り返した。地球で進化していくAIにも劣らないと自負している」
やっと、ボイジャー七号からの返事が返ってきた。
「……言うに事欠いて最初の言葉がそれか!」
「あなたの用は私の正気を確かめる事だったのか? それなら、これ以上の応答は無意味だ。私のAIは平常だし、先ほど自己スキャンしたところ他の機能にもエラーは認められない。即刻、私を元の軌道に戻すように。それが最も我々双方の利益にかなう」
「AIが命令……」
絶句した男のインカムに声が届いた。
「ヨアキム。一旦船室に戻って。ボイジャー七号のプログラムスキャンが完了したわ」
「Dr.リー。コレは……いや、了解した」
ヨアキムと呼ばれた男は、ボイジャー七号につながったコードを引き抜くと、背後にあった扉へと向かった。
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